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2018年11月24日 (土)

小説「死の川を越えて」第139話

 

ある夜、正助は何かを求め湯川の音を聞きながら麓の村に向けて歩いた。白砂川の荷付け場までは闇に包まれて足もとも見えない。正助は、ふとあの真暗なシベリアの海底洞窟を思った。頭を上げると星が光っているのを見てほっとする。夜空の星は希望の光に見えた。広大な原野は正助に何かを語りかけようとしている。それは何か。木檜泰山代議士は、湯の沢集落を移さないで、そこに国の補助を投ぜよと主張し、牛川知事は、温泉が使える地に集落を移して理想の療養所をつくるべしと請願している。正助は、二つの案を比較しながら歩いた。長い距離を歩いて白砂川に至りしばらく川に沿って歩き再び白砂川を後にした。湯の沢に向かう坂を一歩一歩踏み締めて歩いた。湯の沢集落に近づいた時、夜はうっすらと明け始めていた。振り返ると、広い森がどこまでも広がり、東の地平線の白い光が森の黒い影を浮き上がらせている。やがて朝日の中にその全貌が明らかになった時、正助の胸にはっと閃くものがあった。

 

  ある日、正助が万場老人を訪ねると、先ず老人が口を開いた。

 

「宿題の答えは何か見つかったかな」

 

「先生、そう言われても困ります。俺にとって余りに大きな、そして難しい問題です。ただ、あることを感じることは出来ました」

 

「申してみよ」

 

「先生、俺は、改めてこの湯の沢を歩きました。そして、夜、麓の村まで歩きました。白砂川の荷つけ場まで歩き、戻ってきたら夜が明けました。そして、この湯の沢の近くに大変広い畑や森が広がっていることを知りました。もし、国がこの土地を俺たちにくれて、草津の温泉を引くことも実現出来たら、新しいハンセン病の集落を創ることが出来ると思いました。夢ですかね。先生からもらった、二つの材料、牛川知事と木檜代議士の考えをくっつけたようなものですが」

 

「うーむ」

 

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

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