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2018年11月23日 (金)

小説「死の川を越えて」第138話

 

 

 

「はい、それがこの湯の沢のためであり、ハンセン病の光のためなら、俺、命懸けで頑張ります」

 

 正助はきっぱりと言った。正助の頭には、シベリアのハンセン病の部落のこと、あの恐ろしい海底洞窟のこと、後で知った、あの洞窟に呑まれたというこずえの父と明霞の母お藤のことが甦っていた。

 

「よくぞ申した。そこで早速じゃが、お前に仕事を与えるぞ。ここに二つの資料がある。先日、内務省の西村課長から送られてきたもの。一つは牛川虎一郎知事の請願、もう一つは地元代議士木檜泰山先生の提案と政府答弁じゃ。それぞれについて、わしが説明しよう。わしの考えは差し挟まぬ。お前の頭で考えた意見を訊きたいのだ」

 

「分かりました。大変なことになりました」

 

 正助の表情には並々ならぬ緊張感が現われていた。

 

 日を改めて、老人と正助の勉強会が行われ、こずえは茶をいれながら片隅でそっと耳を傾けていた。万場老人は一語一語、語りかけ、正助はそれを全身で受け止めた。日が沈む頃2人は、次回の勉強会の日を定め、正助は老人に別れを告げた。

 

「次は、お前が先生で、わしは拝聴する立場であるぞ。は、は、は」

 

 正助の背に老人の声が響いた。正助は責任の重大さを感じて真剣に考えた。万場老人から渡された資料は読めない字が多いが、部分部分から老人の説明が伝わってくる。正助は何をすべきか迷っていた。死の川は轟々と音を立て、正助に何かを語りかけている。それは何か、正助には測りかねた。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

 

 

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