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2018年10月 8日 (月)

小説「死の川を越えて」第125話

 

「先生、良いお話しをありがとうございました。俺の胸に大きな勇気が湧いてきました」

 

「それは嬉しい」

 

 こう言って二人は強く手を握り合った。

 

 

 

一、 立ちはだかる壁・癩予防法

 

 

 

 正助は、万場老人の不思議な過去に感動した。次に会った時、正助は、高まる気持ちを抑えて言った。

 

「先日、先生はとても気になることを言いました。この湯の沢の移転とか解散につながることがあると。俺は、そのことがとても気になっています。一体、どういうことなのですか」

 

「うーむ。重大なことで、我々の前に立ちはだかった大きな壁じゃ。時代の大きな流れの中で、国がある動きを始めようとしている。ハンセン病の患者を集めて収容しようという動きなのじゃ。癩予防法という法律が根拠になっておる。実は群馬県議会にも関係した動きがある。わしは、古巣の中央の官庁の友人から秘かに情報を得て調べておる。我々ハンセン病の運命に関わることじゃ。唯、流されるだけでは絶対にいかん。闘わねばならん。そのためには、情報を共有し、心を合わせねばならぬ」

 

 老人はそう言って、正助の顔を鋭く見据えた。

 

「前回、ベルツ博士のことを話したな。博士は最高学府を出たわしがハンセン病に罹ったことには意味があると申された。その時は漠然と受け止めていたが、最近核心に近づいていることを感じるようになった。そして、わしの使命が明らかになってきたのじゃ。我々の運命に関わる問題が目の前に現れたために、わしの使命が分かったのじゃ。それはこの大問題と対決することなのじゃ。わしは、老骨に鞭打って頑張るつもりじゃ。よいか、力を合わせるのだ」

 

「分かりました。俺は無学で難しいことは何も分かりませんが、先生の言う通り一生懸命動きます。そして、一生懸命勉強します」

 

「おお、よくぞ申した。この湯の沢で暮らしたことが重要な意味をもつことが分かってきたのだ。この湯の沢で暮らした体験を生かして、ハンセンの光を育てるのじゃ。ハンセンの人々の生きる力を育てるのじゃ。お前が大陸へ行って経験したことも生きるのじゃ。そうそう県議会へ、お前たち家族が行ったこともきっと生きるぞ」

 

 老人はきっぱりと言い放った。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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