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2018年10月21日 (日)

小説「死の川を越えて」第129話

 

 

 

 国の役人がわざわざ湯の沢に来たというので、人々は何事かと緊張していた。それを察したかのように役人は笑顔をつくって言った。

 

「内務省の西村数馬と申します。この地の木檜泰山先生が、国会で、この湯之沢のことを取り上げられます。そこで、良いお手伝いが出来るようにと勉強に来ました。宜しくお願いします」

 

 そして、万場軍兵衛に丁寧に頭を下げて言った。

 

「万場先生でございますか。上司の山田衛生局長から先生の御経歴をお聞き致し、驚き感動致しました。私どもの大先輩でいらっしゃいます。どうかご教示の程お願い申し上げます」

 

「何の、遠い昔のこと。夢中で生きて来ただけじゃ」

 

「ここへ来て、皆さんを前にし、先ず感じました。私たちが役所で取り組んでいるのは、表面のことで軽い。しかし、ここには重い実態があるということです。そして、皆さんの姿こそが私たちが知らねばならぬ真実なのですね。万場先生はこの真実に身をもって取り組んでこられたから、あなたは仕事の上でも優れた先輩でいらっしゃいます」

 

 西村課長の言葉は理屈っぽく響くが、その言葉に乗ってこの人物の誠実さのようなものが人々の胸に伝わってくるのであった。

 

 正助は自分が何か発言することが重要なのだと直感して、妻と力を合わせて正太郎を育てたこと、シベリア出兵のこと、そして、ハンセン病の光のことなどを話した。

 

 正助の話をじっと聞いていた課長は言った。

 

「ハンセン病の光とは、助け合いの中から生まれる生きる力のことなのですね。ハンセン病というと暗いイメージばかり描いていました。大変失礼な言い方ですが、皆さんは人間として立派に生きておられる。患者の皆さんの心はレプラ菌に侵されていないということを知りました」

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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