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2018年10月20日 (土)

小説「死の川を越えて」第128話

 

 代議士が国会で発言する場合に、政府委員の準備は大変であった。そのやりとりが一国の政策に大きく関わっていくのだから、それは当然であった。

 

 山田衛生局長は、木檜泰山が扱う問題が草津湯の沢集落に関するものであることを知って、心中秘かに期するものがあった。木檜は、湯の沢集落を理想の療養村と位置づけ、そのための国の補助を求めようとしている。しかし、それは国が進めようとしている方向とは必ずしも一致しない。答弁には注意しなければならない。そのためには、湯の沢という所の実態を知らねばならないと思った。

 

 山田衛生局長は部下の課長に命じた。

 

「群馬の草津にある湯の沢集落の実態を調べて欲しい。近くに迫っている委員会の木檜代議士の発言に備えるためだ。そればかりでなく、これからの我が国のハンセン病対策に大きく関わることになりそうなのでしっかり頼む。そして、この湯の沢には万場軍兵衛という人物がいる。面白い経歴と体験の持ち主なのだ。この男、昔、東京帝大を出てこの内務省に入ったがレプラに罹って辞めた。ベルツ博士とも交流のあった人物で、内務省は秘かに相談にのってやったこともある。最近は内務省が重視している人物だ。確かな男で、湯之沢の実態を正しく語れる人はこの人物をおいて他にいない。これからハンセン病が社会の大問題になる時、重要な役割を果たすことになるだろう。必要があれば、君が直接出向いてくれたまえ」

 

 課長は、西村数馬といった。局長の話を聞いた西村は事の重大さを察知して直ちに動いた。彼は群馬県の担当課を通して万場軍兵衛に連絡を取り、会見の日時場所を決めた。その際、住民の生活の実態も知りたいので形式張らない会見にしたいと申し添えた。

 

 その日がやってきた。場所は山田屋の一室で、集まった人々の顔ぶれには、万場老人の他に、正助、さや、こずえがおり、驚いたことに森山抱月の姿もあった。万場老人の配慮であった。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

 

 

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