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2018年9月22日 (土)

小説「死の川を越えて」第118話

 

「賛成、その通りだと思います」

 

 正助がすかさず言った。正助はそれに応えて大きく頷く老人の顔を見ながら更に続けた。

 

「先生に、尋ねたいと思っていたことがありますが、いいですか」

 

「おお、何でも聞くがよい」

 

「俺は朝鮮で不思議な経験をしました。ハンセン病の集落の頭は、先生と浅からぬ御縁があって、こずえさんのおばさんと結婚されたと申しました。その人とこずえさんのお母さんは双子だそうで、そのお子さんの明霞さんが草津に来たなんて本当に不思議です。これらは草津、そして湯の沢とどう繋がっているのでしょうか」

 

「うーむ。いずれ話さねばと思っていた。その時が来たのじゃな。よく聞いてくれた。話そう」

 

 万場老人は、そう言って目を閉じ、そして開くと過去を辿るように遠くに視線を投げた。何が語られるのか、静寂があたりを覆っていた。

 

 

 

二、ハンセン病の頭、鄭東順

 

 

 

「明霞の父となる鄭東順は昔、吾妻の鉱山で働いておった」

 

「まあー」

 

 と押し殺した声にならぬ声を発したのはこずえであった。

 

「朝鮮の虐げられた人々を束ねる家の若者だということは秘密であった。そういう素性だと知れると、警察などから何かと目をつけられるからじゃ。半ば、強制連行されてきたらしい。日本では朝鮮人ということで差別され酷い目にあっていた。眉目秀麗の好漢で学問もあり、控え目に振る舞っていたが朝鮮人の中で異彩を放っていたという。ある時、この若者は白砂渓谷に何かの作業に来て谷に落ちて大怪我をした。そこでわしの一族が六合で医者をやっていたので治療することになった。医師は、男の裸を見たとき、腕に斑点がありハンセン病の兆候だと気付いたが警察に届けるようなことはしなかった。

 

 鉱山の方から、何としても助けるように要請があったと聞く。この時、献身的に看病したのが後に明霞の母となるお藤であった。実はな、正助に話すのは初めてのことじゃが、お藤は昔、ある事情から、騙されて女郎屋に売られるところを助け出されたのじゃ。お藤は女郎屋から助け出された後、わしの縁者の医者の所に身を寄せていたのじゃ。お藤は医者と共に現場に走った。目も見えない状態で運び込まれた時、若者はお藤の手をしっかりと握りしめていた。お藤は、前橋まで薬を取りに走ったり、草津へ氷を取りに行ったり、夜も寝ないで看病した。意識を回復した時、鄭東順は涙を流して感謝していた。二人の心はその時一つになっていたに違いない。鄭が韓国へ帰れることになったとき、お藤は離れたくないと言った。誰も止めなかったのだ」

 

「ご隠居様、まるで、お話しの世界のようね」

 

 こずえの頬は紅潮していた。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

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