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2018年9月 9日 (日)

小説「死の川を越えて」第114話

 

 森山議長に案内されて知事室に近づくと秘書らしき人がドアの前で待っていた。

 

「やあ、この若者ですか。森山先生が草津まで行かれて会われたという人は。お座り下さい」

 

 知事は手を差し出して正助に椅子を進めた。

 

 正助はたった今、知事室に来る途中、森山議長から、この知事は富山県出身、東京帝大出の傑出した知事だと聞かされたばかりなので、その緊張は大変であった。しかし、牛川知事の如才ない対応は正助の心を直ぐにほぐした。

 

「湯の沢集落には、ハンセン病患者による患者のための自治の組織があると聞きますが左様ですか」

 

 知事は単刀直入に質問した。正助は、湯の沢集落のことについて真剣に語った。直前に森山県議に語ったことをしっかりと伝えたのだ。ハンセン病の光のことは特に丁寧に語った。正助の胸に、さや、正太郎たちの姿があった。

 

「うーむ。群馬の誇りとすべきことであるな」

 

 知事は頷きながら正助の顔に鋭い視線を注いだ。群馬の誇りという言葉が胸に深く届き、正助は熱いものが湧くのを感じた。知事の質問は、更にリー女史のこと、シベリア出兵のことに及んだ。正助が額に汗を浮かべながら話し終えると、知事は有り難うという表情を笑顔で示しながら言った。

 

「湯の沢集落のこれからについて君の思いを聞かせて下さい」

 

「はい、ありがとうございます。申し上げます」

 

 正助は、ここが自分の正念場と思い姿勢を正した。

 

「湯の沢集落を守って下さい。湯之沢集落は私たちの宝です。ハンセン病の光が放たれています」

 

 正助は牛川知事を見据えてきっぱりと言った。傍らで森山抱月が静かに頷いていた。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著、小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

 

 

 

 

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