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2018年9月24日 (月)

小説「死の川を越えて」第120話

 

 大門は身を乗り出して言った。

 

「余りに大きな問題じゃ。いずれ話そう。そして、じっくり取り組むことにしよう」

 

 他の者たちも不安を顔に現しながら頷いた。

 

「兎に角じゃ、ハンセン病の患者にとって、最大の敵は戦争なのだ」

 

 万場老人は語気を強めて言った。

 

「どういうことですか。もう少し詳しく教えて下さい」

 

 正助が問う。

 

「よいか。重要じゃが単純なこと。戦争になれば、国民は皆協力しなければ非国民と言われる。国の乏しい税金は戦争に使わねばならない。ハンセン病のために使う余裕などないということになる。しかも、ハンセン病の患者は病気を広めて戦力をなくす。国辱と言われるのだ」

 

「ああ、もうやめて下さい。分かり過ぎるくらい分かります」

 

 さやの声であった。

 

「わたしたち、どうしたらいいの。どうなるの」

 

 こずえがさやの手を握って言った。

 

「うむ。確かに我々は世界の波にもまれているが、遠くばかり見てもしようがない。大切なことはこの湯の沢を守ることじゃ。理想のハンセン病の里で自治会は続いている。ハンセン病の光は消えていない。リー先生のような方が支えてくれるのもその現われだ。我々が助け合って頑張ることは、親分が言うように世間の御荷物にならぬことを意味する、そう思わんか。我々が必死で頑張る姿は世間に勇気を与えるはずじゃ」

 

 これを聞いて正助が顔を上げて言った。

 

「先生、世の中に勇気を与えることが出来るなんて。俺たちが世間の役に立つなんて信じられないようだ」

 

 万場老人は大きく頷いた。そして老人はさやに視線を移して言った。

 

「ところで正太郎君は元気か」

 

さやが頷いて何か言いかけた時、リー女史がそっと手を上げて言った。

 

「あなたたちご夫婦の勇気をずっと見守っていました。さやさんは立派な子どもをお産みになった。正太ちゃんこそ、ハンセン病の光が生んだもの。いえ、光そのものだと思います」

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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