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2018年9月29日 (土)

小説「死の川を越えて」第121話

 

「あなたたちに励まされ、正太ちゃんの元気な姿に勇気付けられて、お子さんを持つご夫婦が出て来たのです。お子さんたちがすくすく育つ姿は、ハンセン病が遺伝病だという迷信を破る証拠になるに違いありません。素晴らしいことです」

 

 さやは泣いていたが、涙を拭って言った。

 

「皆さんに助けられたから出来たことです。聖ルカ病院の先生に教えられて京都大学へ行き、偉い先生に会って遺伝病でないことを確信できたのも皆さんのお陰です。正太郎が今、すくすく育っているのも皆さんのお陰、そしてこの集落のお陰です。私は本当に感謝しております」

 

「私にも一言」

 

 そう言って、そっと手を上げたのは先程紹介された市川とめであった。

 

「私は子どもをこの手で絞め殺そうとしていたところをさやさんご夫婦に助けられました。あの時、さやさんが、子どもを殺すのでなく、子どもを生かすために命を懸けるのよ、そこに生きる喜びが生まれるのよと言ってくれたことが耳にこびりついています。その通りになりました。これも、この湯の沢だから出来たことと今、分かりました。。本当に、私、有り難くて有り難くて」

 

「ほおー、そういうことだったのか」

 

 万場老人が驚いたように言った。そして、万場老人はさや、とめ、こずえ、正助と一人一人の顔を見詰めると、何を思ったか視線を落として口をつぐんでしまった。人々は何が起きたかと訝った。不思議な沈黙が一瞬流れた後、老人は口を開いた。

 

「実は、皆と話していて心に生じたことがある。今日は、済まぬがここまでにしてくれぬか」

 

 人々は老人が疲れたものと思い笑顔で頷いたが、正助だけは老人の視線に何か違うものがあることを感じていた。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著・小説「死の川を越えて」を連載しています。

 

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