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2018年8月25日 (土)

小説「死の川を越えて」 第109話

 

「人間も資源ですね」

 

「人的資源というではないか。最も重要な資源じゃ。そこで問題がある。人間を大切にしない国柄のところでは、人間を勢い物質と見ることになる。人間を消耗品と考えるから悲劇が始まるのじゃ」

 

「つきつめると、戦争に役立たぬ人間は不要ということですか」

 

「恐ろしい。戦争は人間をそこまで追い込むことになる。カールさんの訴えたことを肝に銘じなければならぬ。ところでな、日本がいよいよ危い方向に動き出しているように思えてならぬ」

 

 万場老人はそう言って、書類の袋を取り上げた。

 

「お前は、小河原泉という学者の名を覚えているか」

 

「はい、先生。忘れてなるものですか。俺がシベリアの時、さやがこずえさんと京都大学を訪ねて貴重な意見を聞いた人です。お陰で女房は勇気をもらって正太郎を産んだんですから、俺たちの恩人です」

 

「そうだな。わしは、さやさんたちから小河原先生のことを聞き感動した。そして、礼状を書き、その後も時々正太郎君のことなどを報告してきた。また、小河原先生からも時々手紙を頂いた。これは先生から届いたものじゃ」

 

 万場老人はそう言って、封の中から書類を取り出した。正助は何事かと老人の手元をじっと見つめた。

 

「学界で孤立しながらも信念を貫いておられる。ハンセン病は治らない病ではない。感染力は非常に弱い。この信念で、日本でただ一カ所、京都大学が外来の診療をやっておる。先生は、この湯の沢のことを大変注目しておられる。この山奥から京まで、女がお腹の子の運命に関わることを相談に行ったのだから先生としても忘れられない出来事らしい。その後、正太郎君がすくすくと成長していることを我が事のように喜んでおられるのじゃ。その小河原先生が日本の現状を大変心配されておられるのがこれじゃ」

 

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

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