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2018年8月 4日 (土)

小説「死の川を越えて」 第103話

 

 これを聞いてすかさずカールが言った。

 

「ありがとう。ありがとう。君の今の言葉、聞いて、私が日本に来た目的、達せられた思いです。この声を日本中に広げること、大切です。皆さんの心が分かって、私本当に本当に幸せです」

 

 この時、そっと手を上げた若者がいた。皆の視線が集まる。権太であった。

 

「俺は難しいことは分からねえが、体の腐った部分を切り捨てるというのは納得がいかねえ。人間を腐った部分と見るなんて最低の考えでねえか。聞いたことがねえ。西洋の文明国の偉い先生もこんなものかと思いますだ」

 

「そうだ、権太の言う通りだ」

 

 誰かが叫ぶと一斉に拍手が起きた。権太は自分の発言が思わぬ反響を巻き起こしたことに驚き、しきりに恐縮の様子である。

 

「わしにもう一言いわせてくれんか」

 

 万場老人であった。

 

「カールさん、実にいい勉強会ですな。ドイツ、イギリス、韓国、日本が一堂に集まって人間の命、国の役割といった重大なこと、そして、我々の運命に関わることを論じることになった。あなたのお陰ですぞ」

 

 この言葉にカールは大きく動かされたようだ。破顔一笑、それまでの緊張と怒りの表情は消えて、叫んだ。

 

「ダンケ、ダンケ。ありがとう、ありがとう」

 

 人々はこの異人の感情がまっすぐに自分たちの心に届くことを不思議に思い感動した。

 

 その光景を眺めながら老人は続ける。

 

「少し難しい理屈じゃが言わしてもらう。人間は一人一人が大切なのじゃ。国の役割はそれを守ることにある。国は何のためにあるか。わしは、国は弱者を守るためにあると信ずる。だから、生きるに値しない命などという発想がそもそも間違いなのじゃ。こんな考えが日本に広がらぬよう我々は頑張らねばならぬ」

 

 

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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