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2018年8月11日 (土)

小説「死の川を越えて」 第105話

 

 カールは開いた両方の手のひらを前に出して重大さをジェスチャーで示した。正助が頷いた。「それは恐ろしい思想の基礎となっているファッシズム、日本では全体主義と言いますね。人間の権利や自由を否定し国家を最高目的にし、1人1人の人間は国家に従属し奉仕しなければならないとする思想です。国家が間違った方向に進む時も、1人1人の人間はお国のために従属し奉仕しなければならない。国の目的が第一。1人1人はそのためにあるから犠牲になってもいいとなります。先程、ご老人がおっしゃいました。人間は1人1人が大切、国の役割はそれを守ること、国は弱者を守るためにあると。その通りです。ファッシズム、全体主義はこの逆です。今のイタリア、ドイツがそうなのです。だから国が大変な時に、生きるに値しない命などという思想が出てきます。どうか分かって欲しいです」

 

 ここでまた万場老人が手をあげた。

 

「わしの先の発言が取り上げられた。嬉しく思う。そこでまた、一言いわせてもらうぞ。国が間違った道に入って、にっちもさっちもいかなくなって引き返せなくなったら、我々は国のために命を賭けなければならなくなる。そうならぬようにすることが重要なのじゃ。軍国主義の独裁政治では、国民が関わらぬところで、政治の方向が決められていく。現在の日本を見て、わしはこのことを痛切に心配しとるのじゃ」

 

 万場老人が沈痛な表情で言った。正助は老人の話が理解出来たので、老人を直視して大きく頷いた。 

 

 

 

一、 神との出会い

 

 

 

山田屋の出来事は、人々に感銘を与え、それは一人一人の心に根を下ろしていった。新たな出会いと発見を人々がそれぞれの立場で受け止めた。人間とは何か、国家とは何か、神とは何か、これらを今まで人々は深く考えたことがなかった。これらは俄かには消化し難い難問であったが、人々は今、理屈を超えた力を感じて真摯(しんし)に向き合おうとしていた。

 

 ある日、正助はさやに言った。

 

「カールさんやリーさんの偉さと大きさが分かったな。あの人たちは、国境も人種も超えて人間を救うために命をかけているんだね。俺は目の前が大きく開けた気持ちだよ。さや、お前はどう思っているの」

 

「私も同じ思いなの。リー先生の偉さが初めて分かりました。イギリスの偉い生まれで大変な財産をお持ちで、それを湯の沢のことに全てつぎ込んでいると聞きました」

 

 

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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