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2018年7月 1日 (日)

小説「死の川を越えて」 第93話

 

「俺たちが富国強兵の妨げになるとは」

 

「弱肉強食の世界に登場した日本は、健康な強い兵士を育成して強国を実現することを目的としたのじゃ」

 

 万場老人はここで、きっとした目で正助を見詰めて言った。

 

「ハンセン病は恐ろしい伝染病であるから隔離することが伝染を防ぐために、また、欧米人の目から隠すために必要と考えた。更に不治の病という迷信があったから、一度隔離したら二度と外に出さないという方針なのじゃ」

 

「ご老人、日本は遅れていると思います。だから国際会議の動きが気になります。教えて下さい」

 

「そうじゃな。国際会議のことを少し調べておいたので説明しよう。日本がいかに遅れているかが分かる」

 

 万場老人は、そう呟きながら別の書類を取り出した。

 

「第一回ハンセン病の国際会議は明治30年、ベルリンじゃ」

 

「ハンセンによってらい菌が発見されたのは明治6年と聞いております」

 

「その通りじゃ。この会議はそれを受けて、その対策を議論することが目的じゃった。この会議で確認された主な点は、ハンセン病は遺伝性でないこと、一定期間の治療のために隔離が望ましいことなどであった」

 

「日本は、一度入ったら一生隔離と言われています。先生、俺たちの運命はどうなるのですか」

 

「うむ。心配じゃ。一生隔離の根拠は治らないということじゃ。しかし、お前もさやさんも、こずえもこのわしも菌はない。湯の沢では治っている人が多い。無知が差別と偏見を生んでいるのじゃ。第一、一生隔離なぞ人道に反することじゃ。国際会議は治療のための一定期間の隔離が望ましいと、正に人道への配慮を示している。これは、我々にとって暗夜(あんや)の光明じゃ。湯の沢の光に通じるものじゃ。頑張ろうではないか」

 

「はい、先生、暗夜の光明とはぴったりです。勇気が湧きます」

 

 2人はしっかりと手を握りあった。

 

 

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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