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2018年7月14日 (土)

小説「死の川を越えて」 第96話

 

「目の前の試練に正しく応えられぬようでは、廃娼県群馬は本物ではなかったということになります。朝鮮人の問題は、天から群馬県議会に与えられた試練に他なりません」

 

 

 

第四章 生きるに値しない命

 

 

 

一、 韓国の客

 

 

 

 ある日、草津の役場に韓国からの手紙が届いた。宛名は下村正助。差出人は鄭東順(チョンドンスン)とある。正助が助けられたハンセンの集落の頭だ。正助は届けられた封書を逸る思いで開いた。そこには、無事に日本に帰れたことは何よりとあり、大震災の見舞いを述べ、何よりも仲間の朝鮮人が助けられたことに心から礼を言いたい、主要な要件は万場軍兵衛殿に知らせるとあった。

 

 数日後、正助が万場老人を訪ねると、こずえが居た。万場老人の様子がいつもと違う。老人は意を決したように静かに話し始めた。

 

「京城の鄭から手紙があった。大震災で多くの朝鮮人が殺された。その中に、差別された人々が多く含まれているらしい。そのことで、詳しく知りたいので鄭の関係者がそのうちに日本に向かうとある。娘の明霞(ミンシャ)も来るそうだ。実は、明霞はこのこずえと血が繋がっている」

 

「えー、何ですって」

 

 正助は思わず大きな声を上げた。正助は赤いチョゴリをまとった韓国人の娘が誰かと似ていると感じたことを思い出していた。そういえば目の前のこずえとそっくりである。こずえにあのチョゴリを着せれば、同じ姿ではないか。

 

「こずえには、時々話してきたことじゃがな」

 

 万場老人は、そう言って遠くを見るような目をした。

 

「こずえの母は、わしの縁者の屋敷で働いていたが若くして亡くなった。双子であってな、妹がおった。妹は深い訳があって、朝鮮に渡った。立派な若者と知り合い、愛し合うようになり、結婚した。それが若い頃の鄭東順だった。そこで生まれたのが明霞なのだ」

 

 万場老人の話は衝撃的である。

 

「明霞は、母親の縁の地を見たい、そして縁の人に会いたいというので、草津へ来るそうだ。その時は、正助、いろいろ頼むぞ」

 

「分かりました。おれは、鄭さんにも、明霞さんにも大変お世話になっていますから」

 

「私は何か、不思議な気持ちです。そして、恐いようです。どうしましょう」

 

 こずえは、こう言いながらも微笑んでいる。その目には大きな期待が現われていた。

 

 

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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