« 小説「死の川を越えて」 第97話 | トップページ | 人生意気に感ず「初の司法取引は。狂気のオウムの実態。フランスの勝利」 »

2018年7月16日 (月)

小説「死の川を越えて」 第98話

 

 一行は草津に着いた後、明霞の希望で万場老人と会うことになった。明霞は、父の鄭東順から老人に会って宜しく伝えよと言われていたのだ。

 

 正助が働く山田屋の一室で老人は待っていた。老人は、カールと挨拶を交わした後、申し訳ないが明霞、こずえ、正助と特に話したいことがあると言った。別の一室に入ると、老人は明霞の顔をしげしげと見て涙を流した。

 

「鄭東順殿は元気ですか。こんな顔でお許し下され。正助が大変お世話になったそうな、有り難う」

 

「お父さんは、朝鮮人を助けてくれたこと、万場さんに大変感謝していました。宜しく宜しく、言ってました」

 

「わしは今日、重大なことを話す決意じゃ。この時を待っていた」

 

 万場老人はそう言って、こずえを見た。一同は何事かと老人の口元を見詰めた。重い沈黙があたりを覆った。老人は意を決したように口を開いた。

 

「正助が海底洞窟のことを話してくれた。明霞さんの母が日本兵を助けるためにあそこにのまれたな。あの日本兵は、実はこずえの父なのだ」

 

「えー」

 

 こずえと明霞が同時に叫び、正助は息を呑んで老人の顔を見据えた。

 

「こずえの父は満州の関東軍にいたが、何かの任務でウラジオストクに入ったらしい。いずれ話さねばと思っていたが、こずえの心を思うと機会がなかった」

 

 こずえは両手で顔を覆い、肩を小刻みに震わせていた。

 

 

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

 

 

|

« 小説「死の川を越えて」 第97話 | トップページ | 人生意気に感ず「初の司法取引は。狂気のオウムの実態。フランスの勝利」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 小説「死の川を越えて」 第98話:

« 小説「死の川を越えて」 第97話 | トップページ | 人生意気に感ず「初の司法取引は。狂気のオウムの実態。フランスの勝利」 »