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2018年7月29日 (日)

小説「死の川を越えて」 第102話

 

 カールは、女史の方を向いて頭を下げ敬意を表する態度を示して言った。

 

「マーガレット・リーさん。あなたのこと、かねて聞いていました。ここで大変なお仕事されていますね。お訪ねしようと思っていました。お会いできて大変嬉しいです。今、私の気持ち、全部言ってくれました。私のドイツはあなたのイギリスと戦って負けましたが、このような思想がドイツ人の学者から出ること、私、恥ずかしい。ドイツの教会本部からこの考えが広がることを阻止しなさいと強い指示、ありました。私の担当は韓国ですが、韓国のこと、日本に来ないとだめね。裏の世界のこと、鄭さん何でも分かる。いろいろ教えられて、私、助かりました。そして、私の心大変燃えています」

 

 紅毛碧眼の異人がなぜ大きな声で怒るのかその深い意味が人々には良く分からない。ただ朝鮮人を差別すること、自分たちハンセン病の患者に災いが及ぶことを心配してくれていることは分かる気がした。そして、白い肌の異人が真っ赤になって怒るというめったに見られない光景を人々は固唾を呑んで見守った。

 

 この時、万場老人が手を上げて発言を求めた。

 

「リーさんの言うこと、カールさんが怒る意味、わしは良く分かりますぞ。皆さんは神の前の平等ということを申された。神のいうことは正しいに違いないが、神を知らぬ者、又、違う神を信じる者も人間は平等でなければならぬ。この点が大切じゃ。生きるに値しない命と名札を貼られるのは他人ごとではない。わしは、中国に力を広げようとしている日本の将来を心配しておる。アメリカとの関係が悪化して戦うことになれば、日本はドイツとおなじような状況に立たされる。困難な社会状況の中で多くの弱い人たちは、社会にとって、国にとって無用のもの、お荷物とされ、生きるに値しない命とされてしまうに違いない。そうなれば、真っ先に名札を貼られるのは我々ハンセンの仲間であろう。大変なことじゃ」

 

 この時、それまで黙って聞いいた一人の若者が突然声をあげた。正男だった。

 

「カールさんが怒っている意味が分かったぞ。俺たち患者は世の中のお荷物だから殺されることになる。カールさんは、おれたちのために怒ってくれているんだ。感謝しなくちゃなんねえぞ」

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

 

 

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