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2018年7月15日 (日)

小説「死の川を越えて」 第97話

 

 それからしばらくして、いよいよ韓国の人々と会う日がやってきた。

 

 嬬恋駅では正助とこずえが電車の到着を待っていた。こずえは胸の高鳴りを抑えることが出来ない。正助はよく似ていると言っているがどんな人だろう。こずえの心を覗くように正助は言った。

 

「あの時は、朝鮮の腹を着ていたから、こずえさんのことなど頭になかった。それでも誰かに似ていると思った。後で、あの顔はこずえさんの顔だと気付いたんだ。けどね、他人の空似と思っていたよ。まったく世の中は不思議だね」

 

「ご隠居様の話では、私と同じ年だそうなの。私の母とその方の母は双子で、他人様には見分けがつかない程似ていたといいますから、その方と私が似ているのは無理ないわね」

 

 やがて電車が近づき、止まった。中から三人の男女が現われた。

 

「あっ、あの人だ」

 

 正助が叫んだ。赤でなく地味なチョゴリの明霞の姿が近づく。

 

「しばらくです」

 

「まあ、正助さん、お久しぶりです」

 

 たどたどしい日本語であった。正装した姿は見違える様で、にっこり笑った顔はこずえに劣らず美しい。

 

「今日は。ようこそ遠い所へ」

 

 こずえがおずおずと声をかける。

 

「まあ、この方が」

 

 明霞が驚いた声で応えた。

 

 2人は手を握り合った。

 

「日本語がお上手ね」

 

「いえ、ほんの少し、母から教わったの」

 

 数奇な運命を目の当たりにして、こずえは何を話してよいか分からない。2人の男は1人は外国人でもう1人は日本人であった。

 

「私は田中と申します。通訳です。この人はドイツ人宣教師のカールさんです。日本語はかなりよくできます」

 

「カールと申します。宜しくね」

 

 背の高い男は丁寧に腰を低く折って挨拶した。

 

 

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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