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2018年7月22日 (日)

小説「死の川を越えて」 第100話

 

 

 

田中の通訳を交えながら、カールは語り出した。

 

「日本の皆さん、草津の皆さん、有り難う。カールと申します。多くの韓国の人、大震災の時殺されました。とても悲しいこと。日本人に朝鮮人のこと差別する心、ありますね。私、鄭東順からいろいろ聞きました。この差別の心が朝鮮人を虐待する大きな原因になったと思います。この差別、 朝鮮人以外にきっと広がります。ハンセン病の患者にも。そして、国が大変な時、ドイツと同じように、弱い人たちを犠牲にする危険な思想が広がることを恐れます。人を差別する心、人間を大切にしない心は、生産に参加出来ない人の価値を認めません。これ、今日話すことと関係します。草津の湯の沢集落のこと、鄭さんから聞いた。この集落のこと、もっとよく知りたい。私、皆さんと力を合わせたい。これ、イエス様の導きです」

 

 この時、万場老人が発言を求めた。

 

「鄭さんと繋がる皆さんとここで会えるとは実に不思議な気持ちですぞ。明霞さんとこずえがここで、こうして会えるのは、神の導きであろう。カールさんの話を聞けるのも神の力かも知れぬ。ところで、そのドイツで懸念されているという恐ろしい考えとやらを是非聞きたいものじゃ」

 

 カールは大きく頷いて口を開いた。

 

「ご老人、よく言ってくれました。この山奥に来たのには大きな意味あります。ビンディングとホッヘという2人の有名な学者が『生きるに値しない命』という論文を書きました。今ドイツでは大きな話題になりつつあります」

 

「え、生きるに値しない命ですって、そんな命があるのですか。誰が決めるのですか」

 

 正助がドイツ人の言葉を遮って言った。この時、端に座っていたリー女史が身を乗り出すような仕草をするのが見えた。

 

「1920年の初めに出た論文ね。ここ3~4年ドイツでは賛否の激しい議論、沸いています。生まれつきの知的障害者、精神病患者、治る見込みのない病人など生産活動に参加出来ない人を挙げています。こういう人たちのため、国は毎年莫大な負担をしている。それ、誤った政策だというのです。ドイツは戦いに破れ、全国民、飢えようとしている。戦勝国に大変な賠償金を求められ国が亡びようとしている。国民が心を一つにして頑張らなければならない時なのにそういう政策、全く無駄なことだというのです」

 

 

 

 

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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