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2018年4月22日 (日)

小説「死の川を越えて」 第71話

 

 正助が語るシベリアの話は尽きなかった。小隊が全滅したことや、死体が集落の川の淵に投げ込まれることを語った。そして、海底洞窟の話になると、さやは目を丸くし、恐いと言って正助にしがみついた。

 

「気を失っていた時、さやちゃんと正太郎が現れた。光の中で、お前が招いているのだ。俺は必死で近づこうとした。あの生きる意欲が俺を救った。さやちゃん、お前と正太郎が俺を救った。ありがとう。家族というのはいいものだね」

 

こう話しながら、すやすやと眠る正太郎に視線を移すと、さやは大きく頷くのであった。

 

 ある日のこと、正助たちは万場老人を囲んでいた。

 

「今日は正助の生還祝いじゃ。下の里から少し食い物も運ばせた。一杯やりながら正助の話を聞こうではないか。正助の手紙から知ったが生還は奇跡じゃ。正助、足はあるか。は、は、は」

 

老人は愉快そうに笑った。

 

「海底洞窟のことが書いてあった。恐ろしかったであろうな」

 

「この世のものとは思えませんでした。今思ってもぞっとします」

 

正助は、頭(かしら)と呼ばれた鄭東順という人物のこと、その妻が日本人で、その人はあの洞窟に呑まれたことを話した。

 

「実はな、鄭東順は、わしの知り合いであった」

 

万場老人がぽつりと言った。正助は、その時、鄭東順が万場軍兵衛と浅からぬ縁があると言っていたことを思い出した。

 

「いずれ詳しく話すことがあるだろう」

 

万場老人はそう言って話題を変えた。

 

「わしたちは、正助の貴重な体験を生かして、ハンセン病の光を広げる努力を積み重ねることが重要じゃ。今日は、ひとまず楽しく飲もうぞ」

 

 老人は正太郎の頭を撫でながら言った。にぎやかな笑い声が狭い部屋に響いた。

 

 

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

 

 

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