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2018年4月21日 (土)

小説「死の川を越えて」 第70話

 

正助は列車を出て、ゆっくりと歩いていた。運命の時を迎えるという厳粛な気持ちが正助の足に静かな力を与えていた。改札口が目の前にあった。

 

「正さーん」

 

手を振るさやの姿があった。小さな男の子の手を引いている。

 

「正助、ただ今帰りました」

 

正助は直立の姿勢で挙手の礼をとり言った。涙が頬を伝って落ちた。さやも泣いている。

 

「これが正太郎か」

 

「正太郎、ほらお父さんなのよ」

 

正太郎はきょとんとして見上げている。正助は息子を抱き上げた。ずしりとした重みが不思議な運命の絆を伝えていた。さやの目から涙が止めどなく流れていた。

 

「こずえさんと権太さんが来ているの」

 

涙を拭きながらさやが囁いた。

 

「え、こずえさんが、権太も」

 

思わず声を上げたとき、物陰からこずえと権太が現れた。

 

「お帰りなさい。御苦労様でした。ご隠居様が代わりに行けと申しました」

 

「先生は、正さんが怪我をしていて大変かも知れないと思っているの。こずえさんは看護婦さんのつもりなの。権太さんは、あなたの荷物を」

 

「正助よかったな。生きて会えるとは思わなかったぞ。荷物は俺に任せろ」

 

正助と権太は固く抱き合っていた。

 

 湯の沢集落では、正助の主人である山田屋の主(あるじ)の計らいで、一軒の家が用意されていた。ある患者が住んでいたもので、その人が亡くなって空き家になっていた。コンウォール・リー女史の住居の近くであった。

 

「正さん」

 

「さや」

 

 新居で二人は固く抱き合った。正助はさやの胸の鼓動を受け止めて生きていることを実感した。

 

「本当に正さんなのね」

 

さやは正助の胸で泣いた。

 

 

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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