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2018年4月30日 (月)

小説「死の川を越えて」 第74話

 

 正助とさやは顔を見合わせてにっこりした。

 

「お友達になりましょう」

 

そう言って差し出すさやの手を女はしっかりと握り返した。女の顔に笑顔が甦っていた。

 

「とめと言います。お友達になってくれるのですか」

 

「お願いしますね」

 

 さやは大きく頷いて言った。

 

 正助は助けてくれたシベリア、そして韓国の人たちの姿を思い出しながら、一つの恩返しが出来たという感慨にひたるのであった。

 

 

 

第三章 群馬県議会

 

 

 

一、森山抱月の登場

 

 

 

 大正11年の夏のある日、万場軍兵衛から声がかかった。いつもの顔ぶれが集まると万場老人はおもむろに口を開いた。

 

「このあばら家に大変なことが起こる」

 

老人の目は笑っているが、鋭い光があった。何事であるか若者たちには気になった。

 

「一体何ですか」

 

正助が興味深そうに尋ねる。

 

「驚くな、実は、近く偉い県会議員が訪ねて来ることになった」

 

「えー、こんな所にですか」

 

権太と正男が同時に声をあげた。

 

「森山抱月先生といって、わしとは旧知の間柄。お忍びで、この湯の沢のことを知りたいという。今、県議会でもハンセン病のことが取り上げられるようになった。この人は、キリスト教徒でな、議会でも指導的立場にある。リー女史とはクリスチャンということで知り合いの間柄で、この集落に入るにつき、感染の危険があるか聞いたそうだ。リー女史は、私を見て下さい、心配はありません、私を信じて下さい、と言ったので森山さんは安心して来られるという。もっとも、この人は危険があると知っても恐れぬ人じゃがな。目的は、県の政策としてハンセン病を取り上げるために、住民の生の声を聞くのだと言っている。わしに相談があったので、お前たちと勉強会のようなことをやっていると言ったら、それは好都合、是非その人たちに会いたいということになった。近くその日が決まる。その時、思うことを何でも発言し、また質問してほしい。この湯の沢集落の将来に関わることじゃからな」

 

「どえらいことになった」

 

正男がこういうと、皆が同感とばかりに頷いた。

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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