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2018年3月21日 (水)

小説「死の川を越えて」 第61話

 

正助は李の話を聞いて、改めて身震いする思いであった。漁船は韓国の沿岸の侘しい漁村に着いた。待っていたのは馬が引く荷車である。正助が長い道のりを歩くのは無理と考えたハンセン病の人々の配慮だった。幾つもの村や町を過ぎた。緊張して、正助が身を隠す場面もあった。長い距離を経過した時、李が言った。

 

「あの山を越えた所が我々の集落です」

 

李の指す方向に木が茂る小高い山があり細い道はその中に伸びている。暗い森を越えた時、正助は思わず声をあげた。

 

「わあっ。あれが京城ですか」

 

遥か前方に街並みが光って見え、その手前に村落が広がる。そして、急斜面の眼下には、一筋の川の流れが白く光っている。正助は懐かしい故郷の風景に似ていると思った。

 

「あの奥が我々の集落です」

 

李は川の上流を指した。二つの尾根が合わさる谷合からゆっくり煙が立ち上っている。近づくと朽ちたような藁屋根の小屋が点在し、動物のなめした皮を貼った板が並んでいた。犬が激しく吠えている。正助はウラジオストクの死の谷を思い浮かべ、ハンセン病の集落の共通な雰囲気を感じていた。犬の声の方向に、朽ちかけた土塀を巡らせた大きな藁屋根の家があった。正助が驚いた顔をけると、それに李が応える。

 

「お頭の家です。朝鮮半島の虐げられた人々を束ねておられる」

 

 門をくぐると、赤いチョゴリをまとった細身の若い女が待ち受けていて正助に会釈した。

 

「頭の娘さんです」

 

李が囁いた。正助は女の顔を見て、ふと誰かに似ていると思ったが深く意に止めることをしなかった。

 

 頭と呼ばれる男の鋭い眼光と口元には威厳があった。正助が予想していたハンセン病の風貌ではない。

 

「御苦労であった。海底洞窟は肝を冷やしたであろう。出られたのは神の御加護か。は、は、は」

 

頭は豪快に笑った。

 

 

 

※毎週土・日は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

 

 

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