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2018年3月11日 (日)

小説「死の川を越えて」 第58話

 

船の揺れ方が違うので、はてと思った時、

 

「海です。ここからが暫く危険です」

 

朴はそう言って、船先の燈火を消した。遥か前方の水平線が紫色に染まり、その手前に影絵のような島の輪郭が浮かぶ。

 

その時朴が叫んだ。

 

「警備艇だ。あなたはその筵の下に」

 

ロシアの沿岸警備艇は高速で近づき、舳先の旗を見、船を覗き込み、何やら叫んで去って行った。

 

「死体は一つか。後で報告しろと言った。全く形式のことだ」

 

朴は、こう言って、もう大丈夫と筵の下の正助に合図した。

 

 小船は島影を目指して進む。間もなく樹木が覆う一際大きな島の姿が近づいた。

 

「あの向こう側が悪魔の腸です」

 

朴の声が緊張している。突き出た大きな岩の山を巡ると黒い闇の所からごうごうと響く音が聞こえた。黒い穴が口を開け、海流は凄い勢いで流れ込んでいた。

 

「えー、ここに入るのですか」

 

正助は思わず叫んだ。

 

「体を繋いで」

 

朴の声で総勢4人の人々は、船底に固定された綱を取りそれを体にまいた。そして松明に火をつけた。炎に浮き出る徐の目が正助に〈大丈夫よ〉と語っている。船は吸い込まれるように突き進んだ。流れが回りの壁に反響してごうごうと音をたてる。正助は体に巻いた綱を必死で握りしめた。松明の炎の中をいろいろな形の岩肌が過ぎる。

 

それは巨大な蛇のくねる姿であったり目を剥く悪魔の顔にも見えた。

 

※毎週土・日は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

 

 

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