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2018年3月31日 (土)

小説「死の川を越えて」 第64話

 

第一次世界大戦の中でロシア革命が発生するのは大正6年(1917)、この波及を抑えるために寺内内閣がシベリア出兵を決定するのは大正7年(1918)であった。政府は社会主義思想の広まりを恐れ、それを抑えようとしたが、労働者を主体とする政権が生まれたことは、日本の民衆運動に影響を及ぼさずにおかなかった。

 

 このような状況の中で米騒動は起きた。大戦が長引く中で軍用米の需要が増え米価は急上昇したが、米商人は米の買い占めを行ったため米価は更に急上昇し台所を直撃した。そこで富山県の漁村の主婦たちは追い詰められて遂に立ち上がった。米の県外搬出を拒否し、その安売りを要求する行動を起こしたのだ。新聞は「越中女一揆」と報じたため米騒動は全国に広がり、政府は軍隊まで出して鎮圧にあたった。米騒動はおさまったが、寺内内閣は世論の激しい非難をあびて退陣した。もはや従来のような官僚内閣では世論の支持を得ることは出来なかった。

 

 そこで誕生したのが初めての政党内閣たる原内閣であった。衆議院に議席をもつ政友会総裁原敬は爵位を持たず平民宰相と呼ばれて国民から歓迎された。彼は、陸相、海相、外相を除く全閣僚を政友会員から選んだ、原は、せっかく生まれたこの流れを守るために党勢の拡張につとめた。従って、地方の知事にも政友会員をあてようとしたのは当然といえた。かくして群馬県の政友会系知事大山惣太が登場する。

 

 この人物は歴代群馬県知事の中で最も政党色を露骨に出した人として知られる。非政友会系の県会議員に露骨な嫌がらせをしたり、党勢拡張のため党利党略の政策を打ち出した。このような大山知事の政治姿勢に敢然と闘志を燃え立たせた県会議員が民政党の木檜泰山であった。大正八年の県議会は怒号が飛び交う騒然たるものとなった。

 

 議長本島悟市が開会を宣すると、会場がざわつき始めた。木檜泰山がいきなり予告なしに手を上げて発言を求めたからだ。何かが起こる。議員たちの目はそう語っていた。議場に緊張が走った。

 

「過日の予算説明について知事に質問したい」

 

木檜の声は感情を抑えたように落ち着いていて静かであった。議員たちには、それが何かの予兆であるかのように不気味に思えた。

 

「当局者の説明を聞いてからだ」

 

「日程にないぞ」

 

と、政友会議員たちの声が飛んだ。木檜の毅然とした姿は、回りの雑音を跳ね返して意に介さない。

 

 

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

 

 

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