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2018年3月17日 (土)

小説「死の川を越えて」 第59話

 

長いこと時間が経ったように感じた。水の流れ方と岸壁に響く音が変化したと思われた時、金が必死で棹を岸壁に付き立てて船を止めた。逆巻く渦が岸壁に当たって波頭が光っている。徐が頷いて松明を高く掲げた。そこで流れは3方向に分かれている。それぞれの流れは轟音を立てて漆黒の闇に消えている。正助は流れの先の地獄を想像して怯えた。間違えたら大変なことになることは明らかだった。朴に促されて徐は松明を更に高くした。朴が岩肌の一角を棹で突いている。青黒い苔の下から妙な図柄が現れた。目を凝らすと、何と舳先の旗の絵であった。朴はじっと睨んでいたが、やがて頷きながら一方を指した。船は違う流れに乗って暗黒の世界を矢のように進んだ。正助には随分長い距離が過ぎたように思えた。船を操っていた金が何か叫んでいる。

 

「出口が近いと言っているの」

 

徐が正助に口を近づけて言った。

 

「前が少し白いようだ」

 

朴の声も弾んでいる。やがて前方に白い光が差しているのが分かった。

 

「わあー」

 

一斉に声が上がった。吐き出されるように船が出た所は穏やかな入り江の奥であった。振り返ると今進んできた洞窟が何事もなかったように黒い口を開いている。

 

「ここに、韓国の仲間が現れることになっている。あなたを渡して、我々は表の海を通って帰ります。国境は越えたのであなたは心配ない。私たちも何とかなります」

 

正助は命を助けられたことに万感の思いで礼を言った。堅く手を握り肩を抱き合って命の喜びを噛みしめた。

 

「船が来たようです」

 

金が前方を指して言った。

 

※毎週土・日は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

 

 

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