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2018年3月24日 (土)

小説「死の川を越えて」 第62話

 

「朴さんたちには大変助けられました。私は土の中に埋まっていたのです」

 

「聞いておる。手だけ出ていたそうな」

 

流暢な日本語に正助が驚いているのを察して、頭は意外なことを語り出した。頭は全大中と名乗った。娘の名は賢姫。全は目で娘を指しながら言った。

 

「あれの母親お藤は日本人だった。いろいろな経緯があってわしの妻となった。実はあの海底洞窟で行方不明になった」

 

「え」

 

正助は思わず声を上げた。

 

頭は語る。

 

「人のつながりは不思議という他はない。李という者が草津の万場軍兵衛に助けられたことを知って、わしは大いに驚いた。軍兵衛は、わしと浅からぬ縁がある者だ」

 

 意外な言葉を正助は信じられない思いで聞いた。

 

「妻の縁者の日本兵の救出が目的で、海底洞窟へ出かけることになった。止めたが、妻はどうしても行きたいと言い張った。その日本兵との関係を知ったとき、妻を止めることは出来なかった。あの事件があって、あの分かれ道に印をつけさせた。それ以来、迷路に吸い込まれることはなくなった」

 

正助は闇の岸壁に刻まれた奇妙な印の由来を知って不思議な気持ちに駆られた。あの印のお陰で自分は今ここにいる。父親の話に娘は傍らで静かに耳を傾けている。そのただならぬ姿に正助は打たれるものを感じた。

 

「わしが日本に味方する理由は亡き妻の関わりだけではない。日本は開国と共に早くも四民平等を掲げ、賎民を解放する姿勢を示した。アジアで初めて憲法をつくり、教育と科学に力を入れている。ハンセン病も日本のこういう力で解決される日が来るに違いない。我々差別された人間が人並みの人間として生きられる力が日本から生まれると信じている。お前の古里には学ぶことが多いようだ」

 

 

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

 

 

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