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2017年12月21日 (木)

小説「死の川を越えて」 第35話

 

「実は、里でお姉さんが、その偏見とやらの犠牲になりました」

 

「えっ、どういうこと」

 

「村のお医者によって、私がハンセンだと分かりました。ほんの初期で軽いということでしたが、お巡りさんが先頭に立って、白い服を来たお役人たちと一緒にやって来て調査することになったのです。私は助け出されましたが、その後で調査は行われました。パッと村中に知れ渡りました。伝染する、恐い、と誰も近づかなくなりました。姉は嫁ぎ先にいられなくなり、離縁され家に帰りましたが、家にもいられないのです。気が変になっていたと思います。ある時、姿が見えなくなって、探したら井戸に飛び込んでいるのが発見されました。姉の思い詰めた顔が浮かびます。男の人を好きになるのは悪いことなのかとずいぶん悩みました。まして、赤ちゃんを産むなんて許されないことなのかと苦しんでいます」

 

 女医は、まばたきもせず、さやを見詰めて聞いていた。そして、後ろを振り向くと、マリア像を指して言った。

 

「マリア様は馬小屋でイエス様をお産みになった。今から1900年以上も昔、古代ローマ帝国の時代で、今よりもっともっと大変でした。奴隷制度があり、キリスト教徒は迫害されました。ハンセンの人は死の谷に閉じ込められ肉親が面会することも許されませんでした。イエス様は成長して隣人愛を説きましたが、ローマの総督により十字架の刑に処せられました。イエス様の死は全人類を救うための死でした。人の命は地球より重いという言葉を噛みしめます。女は命を産む存在です。女は命を大切にする覚悟を持たねばなりません。私は、あなたに子を産むべきかどうか意見することは出来ません」

 

 そう言って女医は言葉を切り目を閉じた。そして目を開くときっぱりと言った。

 

「キリスト教徒としては信者でないあなたにキリスト教の信念を言えないからです」

 

 

 

※毎週火・木は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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