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2017年12月 3日 (日)

シベリア強制抑留『望郷の叫び』第20話

 

 

 

 ハバロフスク国立古文書館は、外見は普通のビルの一画という感じであるが、中は警備が厳重で、重要書類を政府が守っているという印象をうける。館長はエフドキーモヴァさんという中年の女性であった。女性の広報部長サレーエフさんが同席して迎えてくれた。二人の女性は大変好意的であったが、それはパタポア女史のお陰であった。女史は、ハバロフスクでは名士であり、特に日本との関係で知られているが、ここでは女性同士ということで、一層良い雰囲気をつくりだしていた。このことが、ここでの良い収穫に結びつくことになったことは否定できない。私は用意したプレゼントを女性館長に渡した。一つは絹製のテーブルセンターで、平安時代の宮廷の貴族の様を鮮やかに刺繍したもの。他は私の著書二冊である。館長はテーブルセンターが気に入ったようであった。

 

 私はここで、私の研究テーマに関する貴重な資料を入手したのである。

 

 女性館長は、古文書館のことを簡単に説明した。

 

「当館には、70万以上の書類があります。しかし、当館の宝物は書類ではなくスタッフです」

 

 女性館長はそう言って誇らしげに職員の方を振り返って笑った。

 

「日本人抑留者の資料は、政府からもらっていないのですが、これだけがあります」

 

 館長はそう言っていくつかの資料を私の前に出した。

 

 私は、一冊の薄い冊子を見て驚いた。その表紙には日本語で、「スターリン大元帥へ送る感謝文」とある。

 

 感謝は、その冊子を取り上げて言った。

 

「このスターリン宛の手紙は、百冊しか発行していません」

 

 私はこの文章のことをある文献を読んで知っていた。それには、「日本人としてこれを持ち帰った者は誰もいないので、内容の正確なことは分からない」とされていた。当時、抑留者が帰国を許されたとき、文書や資料¥の持ち出しは厳禁され、厳しくチェックされた。特に、ナホトカで乗船するときは、厳重な身体検査を受けた。見つかると帰国を取り消されたり、再びシベリア奥地へ戻されたりといった大変なことになったという。それでも、戦友の遺言を細かく分けて下着に縫い込んだり、亡くなった友の住所や伝言をメモした紙を糸巻きの芯にしたり、必死の思いで大切な書類を持ち出した手記が残されている。

 

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著「シベリア強制抑留『望郷の叫び』」を連載します。

 

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