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2017年12月28日 (木)

小説「死の川を越えて」 第37話

 

「私は、恐ろしい遺伝病で人にうつるということで東北の村を追われました」

 

さやは重い胸の内を思い切って口にした。このことでどんなに悩んだことか。偉い大学の先生の口から直接真実を聞きたかった。お腹の赤ちゃんの運命がかかっていた。さやは判決を前にした被告のように身を固くして小河原泉の言葉を待った。

 

「結論から言います。遺伝はしません。感染の力は非常に弱い。ハンセン病は治らない病気ではないのです」

 

「まあ、本当でございますか」

 

さやは、信じられない思いで、そっとお腹を撫でた。となりのこずえがよかったねと視線を送る。その表情は輝いている。

 

「ノルウェーという国のハンセンという学者が癩菌を発見したのです。ハンセン病の名は、この学者に由来します。これでハンセン病は菌の仕業ということがはっきりしました。人間の体は細胞という小さな単位で出来ています。遺伝は、この細胞の中にある遺伝子によって伝えられます。ハンセン病菌は、この細胞とは全く別の存在ですから遺伝することは全くありません」

 

小河原はきっぱりと言った。なんと嬉しい言葉であろう。岡本トヨから遺伝病でないことは聞かされていた。しかし、今、有名な大学の先生から改めてそれを聞くことは、格別な重みをもってさやに明るい衝撃を与えた。さやには、目の前の学者が救いの神に思えた。小河原は、手を伸ばして1枚の紙を机に広げた。

 

「これが細胞の図です。精子という一つの細胞、卵子という一つの細胞。これが合体して受精卵となり、分裂して増えて何十億となり、人の体をつくっていくのです。神の業ともいうべき神秘の世界ですね。この細胞から人体が作られる過程、つまり赤ちゃんが作られる道筋にハンセン病菌が入り込む余地は全くありません」

 

さやは、学者の説明がよく分かる気がした。そして、お腹の赤ちゃんにも学者の言葉が伝わり、小さな命が喜んでいるように感じられた。

 

 

 

※毎週火・木は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

 

 

 

 

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