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2017年12月12日 (火)

小説「死の川を越えて」 第33話

 

徴兵検査合格には正助を担当したある医官の思惑も働いたに違いないと言われた。この医官は、ハンセン病の患者はハンセン病で死ぬならお国の為に死ねという考えをもっていたので、積極的に合格させたというのだ。しかし、正助にとって合格は大きな生きる励ましであった。更に天皇陛下から召集令状をもらうとは、差別と偏見の暗雲を吹き飛ばすような出来事であった。草津を発つ前夜、さやは正助の胸で激しく泣いた。

 

「正さん、必ず、必ず生きて帰ってね」

 

「さやちゃん、お国のために命を捧げられることを喜ばなければならない。さやちゃんのことは生きる支えだ。どんな世界が待っているのか俺には分からないが、力いっぱい戦うんだ。勝って帰ることを祈っておくれ」

 

 

 

七、小さな命

 

 

 

 正助は草津を去って行った。取り残されたさやは、言い知れぬ孤独と不安に襲われ、正助の後を追いたい気持ちに駆られた。正助が草津を立ってしばらくした時、さやは体の異変に気付いた。それが小さな命だと知った時、さやの衝撃は大きかった。それは大きな喜びであると同時に新たな不安と悩みの始まりだった。小さな命が愛おしい。この小さな命は正助との絆の証。神様が与えて下さった何よりも大切なもの。しかし、そう考える胸のうちに、暗雲のように湧いてくるものがある。生まれてくる子が恐ろしい病を継いでいたら。正助によれば聖ルカ病院の女医さんは遺伝しないと言ったというが本当だろうか。信じ難いが信じたい思いが湧いてくる。

 

 正助が知ったら何というだろうか。一番聞きたい正助はいない。さやは大いに悩んだ。聖ルカ病院の岡本トヨのことは正助から聞いていた。女医に相談したいが、よく分からない異国の神の言葉を語られたらどうしよう。しかし、誰かに相談したい。迷った末に岡本女医に聞くより外はないと決心した。

 

 

 

※毎週火・木は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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