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2017年12月26日 (火)

小説「死の川を越えて」 第36話

 

 さやは遺伝病でないことを女医から直接聞いても、まだ不安だった。さやの表情を見て女医は笑顔を作って言った。

 

「私が尊敬するある医師に会うことを勧めます。私が東京にいたころに知り合った医師であり、学者です。京都大学医学部を卒業されました。小河原泉様と申され、大変優れた方なのでいずれ医学部の先生になられることでしょう。ハンセン病については学会の主流とは異なった進んだ考えをお持ちです。あなたに決意があるなら、紹介状を書きましょう。京都大学に聞けば、その方の所在が分かると思います」

 

さやは大きく頷いた。正助は、国のために命を捨てる覚悟で出て行った。お腹の子は正助がさやに託した財産であり、正助の分身である。自分も命がけで、この財産に取り組まねばならない。そのための大事な一歩が、この小河原という医師に会うことだと思えた。

 

 さやは万場軍兵衛に相談した。すると、老人はすぐに動いた。京都大学に連絡し、小河原泉という医師と会えることになった。旅費などの費用は万場老人が面倒を見るという。恐縮していると、こずえまで同伴につけると言ってくれた。万場老人はきっぱりと言った。

 

「この問題は、さやさんと正助だけの問題ではない。お腹の子のためでもある。そしてな、我らハンセン病患者全体に関わる予感がするのじゃ。金のことは心配せんでいい」

 

 岡本トヨは、喜んで紹介状を書いてくれた。さやは出発前に紹介状を自分の手紙と共に京都大学に送った。

 

 

 

八、小河原泉医師

 

 

 

さやは旅の途中、偉い大学の偉い先生とはどんな人だろうと、いろいろ想像して緊張していた。大学の門をくぐり、建ち並ぶ建物の偉容さに接すると、その緊張は一層高まった。

 

「さやさん、頑張るのよ。お腹の小さな赤ちゃんがお母さん頑張れと応援しているじゃないの」

 

こずえの励ましの声に頷きながら建物に踏み入れたのであった。

 

小河原泉医師は研究室で2人を迎えた。雑然と積まれた書物の山は湯の沢の万場老人の小屋を連想させ、なぜかさやをほっとさせた。

 

「上州群馬の山奥ですね。草津温泉、そしてハンセン病。私が長年大いに注目してきたことです。遠距離で疲れたでしょう。要点は岡本さんとあなたのお手紙で承知しております」

 

 遠来の労をねぎらう視線は優しかった。髪はぼさぼさで身なりは飾らない人である。恐い先生を想像していたさやは身近かなものを感じて安心した。

 

 

 

※毎週火・木は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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