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2017年10月22日 (日)

シベリア強制抑留『望郷の叫び』第7話

 

私は丘の上からアムールの水面近くまで下りた。アムールの水は、黒みがかった茶色に濁っている。遠方に目をやると巨大な流れは黒い生き物のように見える。いくつもの大きな支流を従えて無辺の大地をくねるさまは、正に黒い龍。中国人が、黒龍江と呼ぶのが分かる。私は、身をかがめて、アムールの水を掌にすくってみた。スープのようだ。塩原さんたちが、かつて、わずかなパンとスープでぎりぎりの飢えに耐えていたとき、よく口にしたという言葉を思い出した。

 

「ああ、今日も、アムールだ」

 

実のない水だけの、目玉が映るようなスープのことを「アムール」と呼んだのだそうだ。

 

 明日は、あれを渡ってユダヤ人自治州のビロビジャンへ行く。私は、夕闇の中にしだいに溶け込んでゆく鉄橋を見ながら思った。

 

 

 

三、シベリア鉄道でユダヤ人自治州ビロビジャンへ

 

 

 

7月20日、ドミトリーが先頭に立ち、研修生二コライも加わってハバロフスク駅へ。ニコライは、ハバロフスクの大学で日本語を学ぶ学生である。日本人との接し方を学び、将来、ドミトリーのような通訳になることを目指していた。まだ童顔の若者は、笑うと人なつっこい目が魅力的であった。

 

 早朝のハバロフスク駅は、いろいろな顔の人々が行き交って、市内とは違った活気が感じられる。ロシアは多民族国家と言われ、ハバロフスク州約百の民族が住むといわれるが、駅は様々な民族を結ぶ役割も果たしているのであろう。駅前の広場に立つ鋭い顔の逞しい男の像は、ハバロフスクのもの。17世紀半ば、開拓者ハバロフがこの地に足を踏み入れ、そこから町の発展がスタートした。ハバロフスクの名も、ここに由来する。

 

駅舎正面の見上げる位置に大きな時計がある。この時計は変わっていて、短針が二本ある。私が見ていると、ドミトリーが気付いて言った。

 

「赤いほうはモスクワの時刻をさします。7時間の差があるのですよ」

 

こんな時計の針もロシアの大きさを刻々と表している。かつて、ソ連時代、列車の時刻表はモスクワ時計を標準にしていたために、この時計が必要とされたらしい。時計はその名残だという。

 

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著「シベリア強制抑留『望郷の叫び』」を連載します。 

 

 

 

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