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2017年10月31日 (火)

小説「死の川を越えて」 第22話

 

正助が竹内館で働くようになってからおよそ1年が経った頃、東北の出だというあるハンセン病患者の娘と出会った。娘はさやといい、正助と同じように患者が経営する旅館、津久井館で働いていた。さやは器量よしで利発そうであった。そして東北人らしい素朴さを失わないでいた。憂いの表情の下から時々見せる視線は一途な性格を示していた。2人は同病ということで時々顔を合わせ、さやちゃん、正さんと呼び合うようになったが、初めのうちは2人がそれ以上に特別の感情を抱くことはなかった。というよりも、心の底にあるものに気付かなかったという方が正確かも知れなかった。

 

時々言葉を交わすうちに、さやは、驚くべき身の上話を語った。彼女は、福島の田舎の出で、ハンセン病に罹ったことが分かり、消毒されることになって、一家が途方に暮れていた時、湯之沢の親分に助けられたというのだ。

 

「えー、親分て誰だい」

 

 正助は思わず声を上げた。さやはそれには答えずに語った。

 

「親分さんは巡査を殴り倒し、私を馬に乗せて助け出したのです。人の目を避け、夜に馬を走らせて、3日かかって草津に着きました。私は、死のうと思っていましたから、親分は命の恩人です。私は助けられましたが、姉が大変なことになりました」

 

 さやはそう言って押し黙った。2人の間に重い沈黙が流れた。

 

「うーん。親分といえば、今は椚原さん1人だが」

 

 さやは黙って首を横に振った。

 

「では、中村大九郎さんかい」

 

 さやは、じっと正助を正視して頷いた。

 

「それは驚いた。大九郎さんが馬で助け出した少女のことは聞いていたが、さやちゃんだったとは。大九郎さんは、気の毒なことになったが、あの最期を無駄にしちゃなんないと俺たち思っているんだ」

 

さやは目に涙を浮かべていた。

 

 

 

※毎週火・木は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

 

 

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