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2017年10月21日 (土)

シベリア強制抑留『望郷の叫び』第6話

 

ドミトリーの端正な顔には品があって、私を見る目は正直に心のうちを表しているようだ。私は素直に受け取ることにした。ドミトリーの話を聞きながら外を見ると、トヨタやホンダの車がやたらと目につく。そして、クール宅急便とか、何々運輸などという表示をつけ日本で使われていたままの姿で走っている車もある。シベリアで意外な日本に出合った思いで嬉しくなった。車内には、旅の疲れを癒すなごやかな空気が流れていた。街には緑が多い。車道と平行している並木は何だろう。聞いてみるとポプラだそうだ。そうこうするうちに車はインツーリストホテルに着いた。

 

インツーリストホテルはアムール川の近くに建てられている。私たちは、ロビーで明日からのスケジュールについて打ち合わせをして部屋に入った。部屋に落ち着く間もなく、私はアムール川を見たくなった。実はまだ、シベリアの実感を得ていないのだ。そのためにも、シベリアの大河アムール川をまず見たいと思い、一人で外に出た。

 

 ホテルの外は緑の木々と、その間に点在する建物で視界は遮られている。私は、アムールの眺望を求めて、直感の命ずるまま、迷わず小高い丘へ通じる坂道を選んで急いだ。坂道は間もなく尽きて丘の上は広場になっており、その一角には、ロシア正教と思われる丸いドームを頂いた美しい金色の教会が建っている。振り返ると、この協会から一望する視野いっぱいに黒い大河が広がっていた。

 

折りしも雲の上の夕日は、天際を赤く染めてアムール川の中に没し去ろうとしていた。これがアムールの夕日かと私は、しばし呆然として神秘な自然のいとなみに見とれていた。そして、この光景は、かつての日本人抑留者を慰める

 

と同時に、望郷の念を限りなく募らせたのではないかと思った。

 

 遥かな遠方に幽かに広がる黒い影は、アムール川の中州か、それとも中国か。豊かな水量をたたえた大河は、静かにのどかに流れている。しかし、冬ともなればアムールの姿は一変し、結氷した川面を伝わる寒気は私たちの想像を超えるものに違いない。氷の上を、ぼろをまといよろよろと倒れそうに歩く抑留者の姿が目に浮かぶようだ。彼方には、次第に濃くなる夕闇の中にシベリア鉄道の長い鉄橋が、一本の黒い線を張ったように見える。

 

 

 

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著「シベリア強制抑留『望郷の叫び』」を連載します。 

 

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