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2017年9月10日 (日)

今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第70回

 

 

 

 高度が増すにつれ気温が低くなっていく。下痢で垂れ流しの兵士の中には、汚れたズボンを脱ぎ捨てて下半身裸で歩いている者もいる。兵士たちは、倒れている死体に適当な装具を見つければそれをはずして使った。

 

「仏さん、いただくぜ」

 

 と言って衣服を脱がそうとしたら

 

「まだ生きている、死んでからにしてくれ」

 

 と絶え絶えの声が聞こえた。私達が聞けば笑いも出そうな話であるが、正に地獄の一コマなのである。

 

 軍医と衛生兵から成る岩田さんのグループに石川という見習い士官がいた。医学校を出て、兵隊としての初歩的な訓練を何一つ受けないまま最悪の戦場に駆り出された人であった。撤 撤退開始から2、3日すると疲労を強く訴えるようになり、5、6日たつうちに疲労はその極みに達した感が見えた。目は虚ろになり、時々うずくまって眠ってしまう。岩田さんはその度に激励し叱咤した。

 

「あの山を越せば頂上は近い。どんなことがあっても生き抜くんだ」

 

 岩田さんの声も、石川見習士官の耳には届いていないようである。

 

「もういいです」

 

 見習士官は微かな声で言った。

 

 そして、ずり落ちたゲートルも自分で巻けなくなり、岩田さんが幾度も巻いてやることになり、遂に座り込んでどうしても動こうとしなくなった。隊は前進しなければならない。面倒を見るにも限界があった。

 

「見習士官と心中するわけにはいかない」

 

 誰かの声が聞こえた。遂に上官の判断が下された。見習士官を残して前進することになったのである。

 

「休んで体力を回復させて、後からついて来るんだ」

 

 岩田さんはそう言って、涙をのんで石川見習士官と別れた。後になって、見習士官が生還した話は聞かなかった。今でも、取り残されて木の下にぽつんと座り込んだ見習士官の姿が目に浮かぶという。

 

 

 

 

 

※土日祝日は、中村のりお著「今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅―」を連載しています。 

 

 

 

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