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2017年9月14日 (木)

小説「死の川を越えて」  第10話

 

「おい、どこへ行く。早まっちゃなんねえ、待て」

 

 仁九郎は、その声に耳を貸そうとせず刀をつかんで飛び出した。大九郎は湯川の縁まで一気に走った。死の川は轟々と音を立てている。川面に先程殺した男の顔が映って見えた。大九郎は腹を露にし、柄をつま先で固定し切っ先をへその辺りに当て一気に体重をかけた。

 

「ぎえー」

 

 と叫ぶと、刀を引き抜き、今度は同じように切っ先を喉に向け、頭を振り下ろすように打ち付け体を乗せて、そのまま湯川に突き刺さるように落ち込んだ。仁九郎を飲み込んだ湯川は何事もなかったように、下流の暗い森の中へ流れ下っていた。

 

 仁九郎の壮絶な死を知った椚原は、暴風の後に取り残されたような気持であった。

 

〈野郎は何を言いたかったんだ。あいつらしくもねえ、神妙なことを言いやがったなあ。あいつが、神とか仏とか言ってもぴんと来ねえが、部落の守り神の白旗神社のことを言った時には、何か胸に来るものがあったぜ。真剣に考えてみなくちゃなるめえ。あいつの死を無駄にしちゃあなんねえ〉

 

太平はこう思って思案を巡らせるのであった。そして、〈そうだ〉と、思わず心に叫んだ。〈この湯之沢部落に変な学者がいて何でも知っているということだ。この爺にひとつ会ってみよう〉

 

 ある日、椚田は万場軍兵衛を訪ねた。

 

「おう、あなたが椚田親分ですか。珍客ですな。は、は、は」

 

 万場軍兵衛は、意外な客を笑顔で迎えた。太平は仁九郎の一件を話した。

 

「腹を切って、湯川に飛び込むとは向こう見ずにもほどがある。死の川が何かを訴えているようじゃ」

 

 昨夜の雨で水嵩を増した流れの音が高く響いていた。

 

 

 

※毎週火・木は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

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