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2017年9月 7日 (木)

小説「死の川を越えて」  第8話

 

「浄化だと。ふん、笑わせるねえ。手前らのナンマイダで、湯川の水が変わるもんか。俺たちには神も仏もねえんだ。説教所をつくって、訳の分からねえお題目を唱えるぐれえなら、俺たちのために金をつくる算段でもやれ」

 

 仁助はたんかを切って、回ってきた奉加帳を破り捨ててしまった。説教所設立を目指す人々は、仁助の存在が運動の妨げとなっていることを憂慮し、仁助の暴挙を器物損壊罪で告訴した。

 

そして仁助は地元の警察に留置されてしまった。留置されている仁助の下に子分がとんでもない情報をもたらした。

 

仁助にはお貞という愛人がいた。子分の知らせによれば、このお貞が、最近、都会からやってきた金持ちの患者の浴客といい仲になっているというのだ。

 

仁助は閉ざされた空間で妄想のとりこになった。お貞の白い肌と嬌声が大蛇のように彼を襲った。妄想は膨らんで、別の黒い大蛇が登場し、2匹は絡み合って一つになり仁助に迫った。

 

「ちきしょう、許さねえ。出たらたたき切ってやる」

 

 そう言って、仁助は壁に頭を打ち付けて叫んだ。

 

中林仁九郎は、数ヶ月で釈放された。その間、説教所の建設も進んでいた。

 

仁九郎にとって、この説教所も許せぬ存在であった。もとはと言えば、この計画のための奉加帳から、お貞の不実までの出来事が始まったのだ。 

 

ある春の日の早朝のことである。仁九郎は建設中の説教所に火を放った。火事は幸いに未遂に終わったが集落の騒ぎは大きかった。人々の騒ぐ声を後ろに聞きながら仁九郎は憎き2人の所へ走った。手には日本刀が握られていた。

 

子分に調べさせておいた宿の部屋に駆け込むと男女はまだ布団の中である。二筋の盛り上がった人の形が憤怒をかき立てた。

 

「やろう」

 

 叫んで布団を引きはがすと、肌を露わにしたお貞のしどけない姿が目に飛び込む。

 

「あれ、あんた」

 

「この、アマめ」

 

 身を起こそうとするお貞を仁九郎は激しく蹴った。お貞は壁に頭を打って気絶した。

 

「わあー、助けてくれ」

 

 男が叫んだ。男の丸い大きな顔が仁九郎には留置所で悩まされた大蛇に見えた。

 

「こん畜生」

 

 閃く日本刀が打ち下ろされると、頭は割れて鮮血が吹き出し、男は虚空をつかみ、もがきながら息絶えた。

 

 

 

※毎週火・木は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

 

 

 

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