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2017年9月17日 (日)

今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第72回

 

 岩田さんは上官の将校からたき火をしてくれと言われたが、まわりには枯れ枝など一本もない。仕方なく立木の枝を折ろうとすると、どの枝にも水を含んだ苔がびっしりと生えていて、とてもたき火の材料にはならない。やっと半ば埋もれた朽ち木を引き出し、乾いた部分を短剣でマッチの軸位に割ってやっと火をつける。やっと赤い小さな炎がチョロチョロと立ち上がり始めた。身をかがめ火の回りに身を寄せる岩田さん達の頭上を強い風が吹き抜ける。消えそうになる火に顔を近づけ、岩田さん達は懸命に吹いた。燃やす木がなくなると小銃の木の部分を外して燃やした。小さな焚火だけで寒さから身を守ることは出来ない。各自が持っている小さな天幕に二人一組となって身体を寄せ合い、一枚の天幕は千切って燃やした。寒さの中にいても睡魔が襲う。

 

「眠ったら死ぬぞ」

 

 声を掛け合い、身体をさすり合って夜が明けるのを待った。あたり一面、このような光景が繰り広げられていた。

 

 夜が明けて遥かな雲の下から赤い陽光が伸びてきた。岩田さんの回りから歓声が上がる。岩田さんの頬にも暖かい太陽の恵みが届いていた。人々は、太陽の光を差し伸ばされた神の手のように受け止めていたのである。

 

 実はこの時、岩田さんの身に大変なことが起きていた。太陽の方向に顔を向けてもぼーっと明るさを感じるだけで、岩田さんは太陽の姿を見ることが出来なかった。一晩中日に顔を近づけて煙の中で吹き続けたため、煙で目を痛められ、失明状態になっていたのである。溜まった水で顔を洗い、目をこすっても仲間の顔が見えない。こんな状態でまだ続くこれからの行進が危ぶまれた。

 

「目の見えない者はおいてゆけ」

 

 ある上官は言った。その時、一人の戦友が岩田さんの手を黙って強く握った。

 

「そんなことは、この俺がさせないぞ」

 

 手の温もりがこう伝えていた。夜が明けたときのあたりの光景は悲惨であった。銃を抱え得たまま凍死している者、天幕につつまれたまま石のようになっている者など多数の凍死者が出ていた。

 

 

 

※土日祝日は、中村のりお著「今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅―」を連載しています。 

 

 

 

 

 

 

 

 

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