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2017年9月18日 (月)

今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第73回

 

 この山頂に一週間程後に到着した人たちの記録には、山頂はあちこちに氷が張った水たまりがあり、そこに首を突っ込んで死んでいる者や手榴弾や小銃で自決したと思われる者など、足の踏み場もないほどの遺体の群れがあり、地獄のようであったと記されている。全工程の中で、一番多くの犠牲者が出たのがこのあたりであった。

 

 戦後30年近く過ぎて、昭和48年9月、岩田さんたちはこのあたりで遺骨収集を行った。ヘリコプターでサラワケット山に着陸。防寒具を持参したが、30分位しか居られない程寒かった。それでも約30体の遺体を集めることが出来たという。岩田さんも既に50歳を過ぎているということもあるが、平和で豊かな日本の生活に慣れた身から振り返るとあの行軍の惨状は別世界の出来事であった。

 

 岩田さんは戦友に手を引かれ、手探りで崖を登り、また、藤蔓を伝って急斜面を下り、サラワケット山を越えていった。足手まといにならぬようにと必死で歩くが時々転んで岩角に頭をぶつけたりした。支えてくれる戦友の手が温かく頼もしく感じられる。この日の午後やっと回りがおぼろげに見えるようになり夕方近くになってはっきりと見えるようになった。

 

「よかったな」

 

 温かく声をかける戦友の笑顔を見て、岩田さんの頬に涙が流れた。不安の闇を抜け出して見るあたりの景色は美しかった。灌木の林を登り振り返ると無数の兵士の列が後ろに続いている。目の前の小高い丘に登ったとき、そこには息をのむ光景が広がっていた。見渡す限りふわふわと綿を敷き詰めたような雲海である。その下から夕陽が照らして、幻想的な世界が広がっている。一瞬、これは別世界かと疑うような景観である。赤く染まった雲海の下に、どっこまでも続く緑の山々を見下ろすことが出来た。遂にサラワケットを征したのだ。

 

「やったぞう」

 

 岩田さんたちは歓声を上げて抱き合った。

 

 

 

 

 

※土日祝日は、中村のりお著「今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅―」を連載しています

 

 

 

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