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2017年8月24日 (木)

小説「死の川を越えて」 4

 

万場老人は正助の顔をのぞき込むようにして言った。

 

「先生、多くのハンセン病の者は、家にも村にも居られず、巡礼のように放浪したと聞きます。それを思うと、この集落はハンセン病患者にとって特別の所という意味がよく分かる気が致します」

 

こう答える正助の瞳は輝いていた。

 

「ハンセン病の患者が自らの手で村をつくり、患者のために自治を行う。こんなことは世界中にないと、わしは信じる。ハンセン病の光と申したのはこのことなのじゃ。問題は、この光が弱くなってきていること。光の意味が分からない人が増えている。光を支えるのはお前たちだ。全国の患者のために頑張る時なのじゃ」

 

「光が弱くなっている、光の意味が分からない人が増えているとは、どういうことですか」

 

 正助が不思議そうに尋ねた。

 

「うむ。初心忘るべからずと言うではないか。時が経つにつれて、開村の理想を理解しない人が増えてきた。治る見込みがないと思うと、世間の差別の中で生きる望みを失い、神も仏もない、太く短く生きようと考える人が増える。そういう人は、今が良ければいいと思って享楽にふける。賭博は当たり前になり、人の道を踏み外す者も出てくる始末となった」

 

「先生、分かる気がします。なあ、みんな」

 

正助の声に他の2人は大きくうなづいた。

 

「今日は、ここまでに致そう。あまり欲張っては消化不良になる。次回は、最近の奇妙な来訪者の話をしよう。この集落に、逆に光が差し込むような話だ。異国人の女とだけ、今は申しておこう。今日は別の女が差し入れた下の里の菓子を食え」

 

そう言って、万場老人は盆に盛った菓子を勧めた。

 

「このお菓子は、先日のこずえさんですね」

 

正助が言うと、

 

「は、は、は。この辺りには見かけぬ美形であろう。あるいは、お前たちと力を合わせることがあるかも知れぬ。いずれ改めて紹介致そう」

 

万場老人の黒い顔から明るい笑い声が流れた。

 

 

 

一、 博徒の親分

 

 

 

湯の川地区には、その魅力に引かれて全国から患者が集まったが、現実は厳しかった。そこには地獄の業火にもがく壮絶な人生のドラマがあった。つかの間の享楽に溺れる者も多く、賭博は誰でも手の届く日常の娯楽として大いに盛んであった。賭博には争いが付き物で、それを仕切る人物が現れる。

 

湯の川地区の暗黒時代、大川仁助と大門太平という親分が登場した。2人はハンセン病の患者であるが、対照的な性格を持っていた。

 

上州は博徒の地である。各地に大小の親分が勢力を競う歴史があった。うわさでは2人は大前田英五郎の流れをくむ者であった。

 

 

 

※毎週火・水は、私の小説「死の川を越えて」を連載します。

 

しばらくの間、通常のブログは月・水・金の更新となります。連載中の小説の執筆に時間を使わなければという危機感に迫られて決断しました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。

 

 

 

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