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2017年8月29日 (火)

小説「死の川を越えて」  第5話

 

 

 

親分大川仁助は激情の人であり、無学であったが、才覚があった。自ら湯の川地区で明星屋という宿屋を営み、その規模は湯の川の宿屋で一、二を争う程であった。

 

しかし、彼の性格は周囲に波紋を及ぼし、とかくトラブルを起こした。特に、宿屋組合が湯の川地区で中心的な役割を目指すとなると、彼の存在は組合にとっても邪魔であった。仁助は宿屋の経営を表向き養子に任せたが、このような環境の変化はこの男をますます放逸に向かわせた。

 

仁助は、神も仏もあるものかと日頃からうそぶいていた。しかし、ハンセン病に対する差別には激しく抵抗し、時にはあいくちを抜いて渡り合うこともあった。

 

彼の心の底には、どす黒い狂気とともにおとこ気と正義感が混じり合って存在していた。彼は、死を恐れぬ男として他の町のやくざも一目置く存在だった。

 

ある時、福島県の山村のある農家にハンセン病が発生した。

 

あどけない少女の雪のような白い肌に赤い斑点ができた。村の医者がハンセン病だと言ったということで大騒ぎになった。

 

世の人のつながりは不思議なもの。この少女と湯の川地区が結び付いていくのだ。明星屋に福島出身の客がいた。ある時、この客がある時、仁助に妙なことを言った。

 

「親分、私の縁者に当たる娘がハンセン病にかかった。かわいそうでなりません。まだ小娘だ。近いうちに、巡査が先頭に立ってやってきて、家じゅう調べるといううわさです。ひでえことになりますよ。一家は村に居られなくなる。娘は首をつるか、井戸に飛び込むより他ありません。何とかならねえものでしょうか」

 

 仁助は黙って聞いていたが、やがてきっぱりと言った。

 

「この明星屋の客は、家族と同じだ。特にお前さんは兄弟と同じ。お前の頼みとあっちゃ黙っていられねえ。何とかするから任せてくんねえか」

 

 仁助の中に眠っていたおとこ気と正義感が頭をもたげたのだ。

 

 

 

 

※毎週火・水は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載します。

 

 

しばらくの間、通常のブログは月・水・金の更新となります。連載中の小説の執筆に時間を使わなければという危機感に迫られて決断しました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。

 

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