« 人生意気に感ず「花咲の大勝と高校野球。バルセロナ型テロ。少女に強制の自爆。いじめに弁護士」 | トップページ | 今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第66回 »

2017年8月26日 (土)

今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第65回

 

 増水した川の圧倒的な水量は兵士を怯えさせた。しかし、どうしてもここを渡らなければならない。連隊から渡河点偵察のための斤侯が数組派遣される。そして候補地がいくつか見つかり、工兵隊が動き始めた。流れの速さや深さを調べるため一人の工兵が命綱をつけて流れに入った。兵士は恐る恐る数メートル進んで立ち止まった。予想以上に水の力が強く耐えられないことが分かったのだ。戻ろうとしたとき、大きなうねりが兵士を襲った。

「わー」と悲鳴が聞こえた。次の瞬間兵士の姿は数メートル下流に流され、あれよという間に見えなくなった。正に一瞬の出来事だった。どんなに犠牲を払っても川を渡らねばならない。多くの将兵の運命がかかっていた。工兵隊の決死の調査で、濁流の中ほどに大きな岩が頭を出している所をみつけた。ここに橋をかけることになったのである。いくつかの中隊に藤蔓百メートルの採取が命ぜられる。つるでしばり、丸太と丸太をつなげるかすがいは、短剣を代わりに使い、遂に決死の作業で橋が出来た。この作業の間、数名の兵士が流れに呑まれた。

 

 工兵隊が決死の作業をする間は多くの将兵は休むことが出来た。続々と到着し、草の上や木の根に腰を下ろす者、大の字になる者、腹這いになる者など、皆様々な姿で暫しの無事を味わい次の行動のためのエネルギー蓄えようとした。おびただしい兵士の数であるが、これが全部ではない。約八千の兵士は、いくつかの隊に分かれて進んでいた。そして途中別のルートを通ることもあったが、山頂付近では一つになって山を越え、キアリを目指すのである。岩田さんは先頭の隊に属していた。この大規模な撤退作戦については、ロサンゼルスオリンピックでマラソン選手として活躍した北本正路少尉が軍の命令により何名かの健脚の兵士とサラワケット山系を踏破した体験が生かされていた。撤退はラエから北岸のキアリを目指すものであるが北本少尉らは逆にキアリからラエに向けて歩いた。北本少尉の時を大きく違う点は、戦況が極度に悪化した中でほとんどの兵士が負傷し、あるいはマラリアや赤痢に冒され体力が著しく低下した状態での行進だったということである。

 

 

 

※土日祝日は、中村のりお著「今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅―」を連載しています。 

 

 

 

|

« 人生意気に感ず「花咲の大勝と高校野球。バルセロナ型テロ。少女に強制の自爆。いじめに弁護士」 | トップページ | 今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第66回 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第65回:

« 人生意気に感ず「花咲の大勝と高校野球。バルセロナ型テロ。少女に強制の自爆。いじめに弁護士」 | トップページ | 今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第66回 »