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2016年10月31日 (月)

人生意気に感ず「内乱の地の2人の若者は語った。イスラム教の真実は」

 

 ◇29日のふるさと塾では、予想外の人物の登場に、人々は息を呑み、凝視し、話が終わると一斉に拍手した。二人の若者の話はそれほど衝撃的であった。 

「ふるさと塾」の今月のテーマは、テロの発信地「イスラム国の実態」。二人の若者は「イスラム国」が存在するシリアの出身で、ハナンさんはダマスカス、マフムード君はアレッポが故郷である。

 

 スカーフで覆い、顔の正面だけ出したハナンさんは必死で訴えた。「イスラム国は本当のイスラムではありません。ムスリムの日常の挨拶には平和をあげますという意味があります。皆さん、どうかイスラムについて、いっぱい本を読んで勉強して下さい。そうすれば、本当のイスラムを理解できます」

 

 女性が肌を見せないことについては、自分のポケットを指して言った。

 

「ここに財布があれば盗ろうとします。肌を隠すのは女性を守るためです」

 

 また、「日本をどう思いますか」という質問には、「広島と長崎に原爆を落とされて亡ぼされたのに、立ち上がり、反省して、別の戦いで世界のトップレベルの国の一つになりました。素晴らしい国です。私たちは大きな勇気をもらいます」と答えた。

 

◇マフムード君は18歳、数か国語を操る。ハナンさんもマフムード君も大変クレバーである。18歳の若者は日本に来るために必死で働いた。アメリカとISとの戦はゲームだと言う。それは、人間の命の大切さなどは考えていないと言いたいのだろうと思った。

 

 マフムード君は「アメリカがISを倒す前に悪い政府があった」と語った。フセインの独裁政治である。これが倒れた後に、権力の空白地帯が出来、ここにISが入り込んで広い地域を支配して「イスラム国」(IS)の成立を宣言したのだ。不毛なゲームは果てしなく続く。

 

◇正義を信じて「イスラム国」に参加した若者の中には、実態を知って嫌気がさしている者も多いと言われる。彼らも自国に帰ればテロリストとして逮捕されるから帰れない。家族は、教育が悪いからだと非難されるという。

 

 かつてイスラム文明は西欧文明より遥かに優れていた。医学も天文学も化学も。あの栄光は甦るのか。政教一致の世界と私たちは共存できるのか。世界のモスレムは16億人とも。無知が偏見を生むことを感じた。(読者に感謝)

 

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2016年10月30日 (日)

小説「楫取素彦物語」第178回

幻馬は言った。

「政府の要人は、公娼に頭を痛めております。表面では公娼に反対しない人も、心の奥では公娼がなくなることを望んでいます。

ですから、裁判の行方も、あなたが勝つことを秘かに望んでおる者も多いはず。私は政府の要人にも通じているから、今後、あなたの役に立つことをあろうかと思います

「ワンダフルです。神様の導きです。私、一生懸命に頑張ります」

 モルフィは、孤軍奮闘の中で大きな援軍に出会ったように意気揚揚として言った。

 モルフィは、遊女、佐野ふでの父親に会った。ふでは遊郭での名は小六であった。モルフィは遊女の廃業の意志が固いことを確かめる必要があった。

佐野ふでの父親は言った。

「お約束の通り、ここに娘の文を預ってきました、どうかご覧くださ

 ふでのは次のようなものであった。

「ぶしつけではございますがおねがひ申し上げます。毎日の生活に耐えかね自由はいげふ決意いたしました。かた気な生活ができるならどんなに貧しくとも耐える気持ちでございます。おうわさでは、あなた様は、われわれ不幸なる女のために御力をおかし下さる由、涙にむせび感謝申しあげます。裁判になり途中で楼主から何を言われても神にかけて決心をかえることはございません。何とぞ、自由はいげふ叶いますよう手を合わせ御願い申し上げます。

モルヒ 様 佐野ふで」

 モルフィは、文面をじっと見詰めていたがやがてきっぱりと言った。

「娘さんの決心よく分かりました。私、神様に誓ってあなたの娘を救い出します」

 公娼制度はモルフィにとって巨大な社会悪の砦であった。日本は、殺人を除けば人間社会で最大の悪徳である人権蹂躪を必要悪として許している。神を恐れぬ所業だとモルフィは天の一角を見詰めて思いを込めた。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

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2016年10月29日 (土)

小説「楫取素彦物語」第177回

訳があって、私の縁者苦界に身を沈めていますが、あなたの活動を知って苦界から抜け出し人生をやり直したいと申しています。大きな社会的意義のあることで、私はこの女をそのためにも助けたいのです」

「おお、ワンダフル、素晴らしい。神様の導きです。私、神に誓い、命がけでやります」

 モルフィは瞳を輝かせて言った。

 この時、もう一人の男が口を開いた。

「楫取殿とは、長い不思議な縁があります。新しい世になる前の混乱の中で出会った仲です。ジョン万次郎にも会わせました。外国から鉄砲を買う助けもいたました。当時、私たちは土佐藩の下で情報を集める仕事をしておりました。振り返れば夢のような年月です

「おお、あなたたちは忍者でしたか」

モルフィが目を丸くして、両手を広げて驚く仕草を見せた。

「わっはっは。まあ、そんなところですな。楫取殿にあったら、幻馬とお綱と言えばよく分かるはずです」

「遊女は佐野ふでと申します。郭の中ゆえ連絡がとれませんが、年をとった父親がおりまして、この人は娘と会うことが出来ます。この人から近く連絡があるはずなのでよろしくお願い申します」

 お綱はモルフィに深々と頭を下げた。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

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2016年10月28日 (金)

人生意気に感ず「警察マラソンに。金正恩の孤独と哀れ。三笠宮の死」

 

 ◇昨日、恒例の警察リレーマラソンに出た。警察官の志気高揚、体力・気力の増進等のため意義のあるイベントである。主催者の挨拶もこのような目的を訴えていた。私はこれを聞きながら最近の警察官の志気、倫理観の乱れと低下は唯事ではないと思った。ケータイのニュースに飛び込む警察官の不祥事には呆れるばかりだ。警察官も人の子。享楽の世相を写して止むを得ない面もあるが、警察官は日本の屋台骨を守る砦であるから事は重大なのだ。この砦を守る意味を多少とも担うのが警察マラソンであろう。 

 

 このマラソンに、県会議員、記者、そして今年は県職のうち県土整備のメンバーからなる3チームが参加。私は県会議員OBとして県会議員のチームに加わった。距離は物足りない位短い。女性議員と分担したためだ。1.1キロを全力で走った。快晴でやや強い風の中、踏みしめる大地に手ごたえを感じた。来月3日、ぐんまマラソンの前哨戦である。

 

◇金正恩に関する気がかりな情報が入った。身辺不安のため毒物や爆発物を探知する装備を輸入したとか、酒におぼれているという情報も。

 

 民衆に支持されない独裁者の孤独感は想像を超えるものに違いない。心を支えるものは国家のためという信念であろう。多くの国民が飢えたり国外脱出を行っている。忠誠を誓っている筈の側近までが頻繁に亡命している状況では、その信念を維持出来ない筈だ。

 

 金正恩の体形、太り方は、遠望するに、正常とは言えない。ストレスの塊のようだ。核戦力だけが国を支える現状は意外に脆いに違いない。その時は近いのではないか。恐いのは、破れかぶれの暴走。備えをしなければ。

 

◇昭和天皇の弟、三笠宮が100歳で亡くなられた。古代オリエント史を専門とする立派な学者だった。実際に大学で教鞭を執られた姿は皇室を身近に感じさせ、皇室への信頼感を高めるものだった。戦争では参謀を務めたが「戦争の罪悪性を十分に認識しなかった」と悔やんでおられた。皇室の歴史に一つの幕が下りた。

 

 この不幸によって、ドゥテルテ大統領と天皇との会見は取りやめになった。ドゥテルテは身近に見るとその言動と共に面白い人物だ。日本の歴史と文化のエキスたる宮中でどのように振る舞うか見たかった。(読者に感謝)

 

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2016年10月27日 (木)

人生意気に感ず「大川津波訴訟。船越小との運命の対比。ドゥテルテの強かさ」

 

 ◇仙台地裁は14億円余の賠償を命じた。大川小津波訴訟。74名の児童が犠牲に。判決は大規模な津波の襲来を予見出来た、裏山に避難させず結果回避義務違反の過失があったと認定した。 

 

 地震は、2011年3月11日午後2時46分。あれから5年半以上が過ぎた。判決は、忘れかけた惨状をまざまざと甦らせた。人々の運命は裏山に登るか否かにかかっていた。校長は不在で、リーダーの教頭は生徒を校庭に整列させたまま長いこと迷っていた。広報車からは津波襲来の声が聞こえていた。校庭から海は見えない。列を作って行動を始めた時には地震から50分も経っていた。唯一人生き残った教員は、「道もない山に登らせることを教頭はためらっていた。山に行きましょうと強く言っていればと思うと悔やまれて胸が裂けそう」と語った。

 

 現場のリーダーの状況判断と決断にかかっていた。津波が近づくのを調べられた筈。当時の親は「人災だ」、「人殺し」と叫んでいた。

 

◇「もう少しで大川小になるところだった」のが岩手県の船越小。校務員の田代さんの必死の動きが全員を救った。生徒が校庭に避難し整列して待機。ここまでは大川小と同じ。田代さんは校庭と防潮堤の間を何度も走った。水平線が立ち上がったように見えた。田代さんは校長に訴えた。「逃げましょう。後で笑われてもいい。きれい事では守れない。草をつかんでもとにかく逃げなければ」と。校長は田代さんの鬼気迫る様相に押された。校長は即断した。直後に津波は校舎を呑み込んだ。

 

 東海、東南海、南海の巨大地震が連動して迫っている。大川小と船越小の対比の事実を全国の学校、自治体は最大の教訓として生かすべきだ。判決の意義はここにあると思う。

 

◇米国との決別を明言したドゥテルテ大統領は、共同声明で、米国の存在が重要と認め、常に日本の側に立つ、仲裁裁判を尊重すると表明した。米中の緊張関係を巧みに利用、そのために日本を尊重するという強かな面が窺える。フィリピン人記者が、大統領の過激発言は「先進国の傲慢な対応が原因」と語った。この点には深い意味がある。白人が上に立って後進国を支配した長い歴史を意味するからだ。大統領が先に訪中し波紋を立て、日本がそれを静める。日本はこの点で一定の役割を果たした。日米同盟を固め、次は日露を発展させる番だ。

 

◇今日、私は警察マラソンに出る。(読者に感謝)

 

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2016年10月26日 (水)

人生意気に感ず「爆破事件・高齢者の孤独。ドゥテルテの正体。育英と健大」

 

 ◇宇都宮の爆破事件の背景には深刻な高齢社会があるようだ。72歳の容疑者は3人を巻き添えにして自爆したと見られる。DV、離婚訴訟で敗訴、社会への逆恨み、耐え難い孤独感。「冤罪判決で生きる道を絶たれた」、「私は全てに負けた。社会に訴える」、「秋葉原無差別事件のような事件を起こしたい」等ブログで絶望の心境を書いている。このような高齢者は無数にいるだろう。自暴自棄の老人が他人も巻き込んで自殺する事件が後を絶たない。

 

 核家族化が進み地域社会の人の繋がりも増々希薄となっている。頼れるのは自分だけ。その自分の生きる力は年々萎む。高齢で皺が増すのは肉体だけでなく、心の皺も増す。判断力が鈍り前向きな決断が出来なくなる。認知症の境界線近くにいる高齢者は限りなく多いに違いない。今回のような事件は増えるに違いない。事件を起こして刑務所へ行く高齢者は哀れである。現在、刑務所は高齢者であふれ、刑務官は介護の仕事までしなければならない状況にあると言われる。長寿とは高齢者を支える健全な社会なくして実現しない。

 

◇ドゥテルテ大統領は今日、安倍首相と会談し、明日天皇陛下と会見する。どちらも気になる。フィリピンとアメリカの関係は長い歴史を持つ。中国が新たな海洋国家を目指して従来の国際秩序を無視しようとしている事態に対して、フィリピンの存在は大きい。ドゥテルテ大統領は、北京でアメリカと「決別」すると明言した。真意は何か。南シナ海で軍事拠点化を図る中国は喜んでいるだろう。尖閣を抱える日本の安全保障に関わる。首相は米国との修復を要請するだろう。行き過ぎたと思っているとすれば、ドゥテルテはよい機会と受け止めるのではないか。中国を先に訪問したことに日本は不満を抱いているが「決別発言」後の方が、かえって日本は大きな役割を果たせることになったと思われる。

 

 宮中でどういう態度をとるか。血の海から抜け出したようなギラギラした姿は、日本の伝統文化の象徴たる宮中とは一見調和しない。しかし、清涼剤を得て平和と人権を考える一助とするかも知れない。注目したい。

 

◇育英と健大の野球が湧いている。関東大会でそれぞれ4強入りし、選抜ダブル出場が有力となった。私は育英の理事として嬉しい。文武両道が本物になってきた意義は大きい。(読者に感謝)

 

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2016年10月25日 (火)

人生意気に感ず「鳥取地震と南海トラフ。大川小と船越小。カメルーンへ。二つの補選」

 

 ◇このところ、地震が余りに多い。「来る」と叫べば「狼が来る」を連想させるが、本当に来るかもしれない。鳥取県の6弱は特別の意味があるように思えるのだ。 

 

 1943年(昭和18年)、鳥取地震が起き、その直後に南海地震が発生した。南海トラフ型が近い近いと言われているだけに大いに気になる。先日は群馬県北部で震度3があった。「群馬は大丈夫」と胡坐をかいてはいられない。

 

◇東日本大地震から5年半以上過ぎた。東北以外ではすっかり感心が薄くなっている。しかし、被災地の傷跡は今でもざっくりと生々しい。それは人の心の傷も同じである。人の傷を示す出来事が大川小に関する訴訟である。間もなく、26日、仙台地裁で判決が下りる。

 

 私は、ブログで何度も取り上げてきた。対比されるのは大川小と船越小である。宮城県の大川小では逃げ遅れた為、108人の児童中74人と教職員10人が犠牲となった。一方、岩手県の船越小では、用務員の田代さんが「鬼気迫る様相」で、「きれい事では子どもを守れない。草を掴んででもとにかく逃げなければ」と訴えた。校長はこれに従ったため、136人の全児童は助かった。津波はすぐに校舎を呑み込んだ。このふたつの事例は、大きな教訓を残している。あの「稲村の火」と共に、教材として広く子ども達、そして大人たちに示すべき時ではないか。

 

◇私が学院長を務める日本アカデミーの若い女性職員が、来月アフリカのカメルーンに出張する。現在、数名の留学生が来ているが、留学生受け入れの流れを発展させることが主目的。カメルーンといえば、赤道に近い国で、私の少年の頃は暗黒大陸のイメージがあった。私が愛読した山川惣治の「少年王者」の舞台はカメルーンの隣国ザイール、かつてのコンゴであった。時代が変わったのだ。アフリカはもはや暗黒大陸ではない。日本企業が大挙して開発に参加する時代である。今年8月、ナイロビで開かれたアフリカ開発会議では、日本の22の企業団体が参加した。インフラが整備される。しかし、車であふれるアフリカを想像したくない。

 

◇二つの国政選挙は予想通りの結果だった。東京の若狭氏と福岡の鳩山氏。どちらも注目の存在だった。一人は小池都知事との関係で、もう一人は鳩山家・鳩山邦夫の後継という点で。(読者に感謝)

 

 

 

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2016年10月24日 (月)

人生意気に感ず「選挙の大波が。東京、福岡、総選挙。ドゥテルテの野蛮」

 

 ◇にわかに日本中が選挙づいてきた。東京と福岡の衆院補選、各地の知事選。そして近づく総選挙などだ。若狭氏は小池百合子都知事の後継として名乗りを上げた。都知事選では自民の国会議員の中で唯一人、党側に逆らって小池さんを応援し時の流れに乗った人だ。 

 

 鳩山二郎氏は、鳩山家の御曹司。父邦夫氏の急逝に伴う補選だった。週刊誌では、鳩山家では当たり前と言われた東京大学出身ではないことが注目されたりした。

 

◇衆院総選挙が実質的には始まっている。街中にポスターがどっと貼られ出したのはそのことを物語っている。先日、尾身朝子氏の幹部役員会に出た。実質的には選対会議。自民党内の状況では解散と総選挙の日程まで想定されている。1月22日か29日に投開票の可能性がある。それは、12月15日のプーチン来日との関連である。秘かな情報では北方領土に関して歴史的展開があるといわれている。それを総選挙の勝利と結びつける戦略とするからには余程のことがあるのではないか。解散は総理大臣の専権である。

 

◇ドゥテルテの容貌は獰猛な野獣を思わせる。フィリピンで行われているとんでもない殺人政策と重ねるからであろう。司法手続きを経ないで、多くの麻薬犯を警察に射殺させている。刑務所は超満員、自らも機関銃などを手にして戦ったことがあるという。

 

 フィリピンの国民は圧倒的多数がこの暴虐の大統領を支持している。これは、フィリピンの絶望的な治安状況を物語るものか。それともフィリピン国民の尺度を現すものか。恐らく両方だろう。このドゥテルテが周近平と握手して、アメリカと決別すると表明した。アメリカは今、大統領選で有効な手が打てない。オバマの弱腰ということもある。その中で中国の横暴が進む。日本の安全保障にも大きく関わる。

 

 ドゥテルテが来日する。そして天皇陛下と会見する。いわば二つの文化の遭遇である。ドゥテルテの野蛮性が宮中でどう演出されるのか注目したい。

 

◇800頁を超える「ハンセン問題に関する検証会議・最終報告書」の主要部を読んだ。日弁連法務研究財団によるもの。捜していた資料の多くが載っている。ハンセン病に関する満州や朝鮮に関するものまで。上毛連載予定の小説の一部を県保健予防課と草津楽泉園に送った。連載は12月からとなる予定。(読者に感謝)

 

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2016年10月23日 (日)

小説「楫取素彦物語」第176回

 モルフィ裁判に挑戦す

 

 

 モルフィは、遂に娼妓佐野ふでを救出する訴訟を名古屋地裁に提起した。それは廃業届けに捺印を求める訴訟である。

 廃業届捺印請求には、次のような前提がある。明治五年の太政官布告は、娼妓契約を無効とし娼妓を解放した。しかし、その後の実態は変わらなかった。業者の屁理屈はこうだ。女郎を拘束して自由を奪うからいけない。業者は座敷を貸し、女郎は営業主として売春をする。つまり、業者は貸座敷業者となった。これを逆手にとったのがモルフィの作戦だった。女郎が営業主なら、始めるのも勝手、止めるのも勝手のはず、だから自由廃業が認められるという論理である。ところで敵もさるもの、国は、娼妓取締規則を設けて娼妓を厳しく取り締まった。そして、取締規則は、廃業届には楼主の捺印を要するとあった。そして、廃業届に業者は印を押さない。そこで捺印を求める訴訟の提起となったわけである。

 

 遊女佐野ふでの救出をモルフィが決意するにはあるいきさつがあった。ある日モルフィのもとへ、立派な身なりの男女の老人が訪れた。男は、モルフィが楫取に会い、穂積博士を訪ねたことを知っていた。要件は、女の遠縁に当たる遊女がどうしても廃業したいと言っている、この遊女を助けて欲しいというものだった。

 女は言った。

「私は昔、仕事でアメリカ、上海など外国によく行きましたが、日本の賎業女性の醜態は目に余ります。日本の対面は丸潰れでございます。多くの日本人が日本の発展に命がけで頑張っているのに台無しです。そのもとは公娼があるからです。アメリカ人のあなたが裁判の手段でこの問題を追することは誠に意義のあることです

意外な話にモルフィは驚いて身を乗り出した。

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

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2016年10月22日 (土)

小説「楫取素彦物語」第175回

この太政官布告は、明治三一年七月十六日、民法施行と共に失効いたしました。その意味は民法九十条に受け継がれたからです。あなたが裁判所に訴える場合、この九十条を使うことになるだろうと推測いたします。民法九十条には、公の秩序善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とするとあります

「なるほど、なるほど」

モルフィはメモしながら頷いた。

牛馬に等しいとされる娼妓契約が、公の秩序にも、また善良の風俗にも反することは明明白白ではありませんか。太政官布告第二九五号が、民法九十条に受け継がれたという意味がお分かりでしょう

「はい、よく分かります」

もともと、貸座敷の業者は許されるべきでないことをやってきました。裁判に勝って、女性の人権を守ってください。また、日本の善良の風俗を守ってください。訴訟の大筋からして、あなたが勝利することは間違いないことです。ただ現実にはどろどろした争いが待ち受けていることでしょう。どうか気をつけて頑張ってください」

 穂積博士は、淡淡と論理を展開した。モルフィは、明快な理論と共に伝わる法学者の温かい心に感動したのであった。

「目の前のもやが開けたようでございます。今日は、先生の門下生にしていただいた気持ちです。先生の名を傷つけないようにしっかり頑張る決意であります」

 モルフィはこう言って、東京帝国大学の穂積研究室を後にした。モルフィは振り返って日本帝国の権力の象徴たる荘大な建物群を見た。今自分は帝国の陋習と戦おうとしている、その意味では帝国と対峙しようとしているのに、帝国大学が暖かく対応してくれたことに不思議な気持ちを抱くのであった。そして、モルフィは、この新生の日本国が廃娼の問題を乗り越えて大きく発展していく力を、この東京帝国大学のキャンパス全体から感じとっていた。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

 

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2016年10月21日 (金)

人生意気に感ず「宇宙時代に突入した。アメリカはどうなる。ドゥテルテの不可解」

 

 ◇15世紀末、コロンブスが新大陸を発見し大航海時代が幕開けした時の人類の興奮は、新しい宇宙を発見したようであったに違いない。 

 

 今、人類の第二の大航海時代が始まろうとしている。6年後にアメリカのある民間団体は150人もの人間を火星に送り込む計画だという。また、中国は最近、有人のロケットを宇宙空間に打ち上げ、近い将来、独自の宇宙ステーションを建設すると言われる。人類が初めて宇宙に第一歩を印したのは昭和44年(1969)だった。

 

 アポロ11号の月面着陸の瞬間、世界の目は釘づけになった。アームストロング船長の次の言葉は有名だ。「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」。月までの距離は約40万キロ。宇宙船は8日間の旅を終えて太平洋に着水した。

 

◇金星を調べる衛星「ひまわり」の活躍が報じられた。太陽系で地球の内側を回り、地球と双子と呼ばれるほどよく似た星だ。20キロメートルの厚さで濃硫酸の雲が覆い、460度、正に灼熱の星。太陽に近いため水は存在できず海はない。地球は海があるから二酸化炭素(CO2)が吸収され、私たちが存在し得る温度が保たれている。太陽からの距離が離れすぎれば寒くなって生きられない。奇跡的な条件下で生命が発生し、進化し今日の私たちがいる。広い宇宙には同じような条件下で進化を遂げた生命体が存在するに違いない。それとの遭遇が待たれる時代となった。

 

 人類が宇宙へ発展する時代だというのに、何百年も前と変わらない戦いを続けているのが人類という生き物の実態である。進化させた頭脳によって科学を発展させ、それによって自らの首を締めようとしている。核をコントロール出来ない人類に未来はあるのか。

 

◇大統領選が大詰めだ。最終のテレビ討論は中傷合戦が中心だったようだ。それでも、人々はそれを材料にして大統領としての資質を判断する。直ちに出された世論調査では、CNNが39%対52%。各メディアの平均は42.1対48.6。どちらが勝ったかを問う調査で、いずれもヒラリーが勝っている。負けているとはいえ、トランプがこれだけの支持を得ている点にアメリカ社会が複雑で深刻な問題を抱えることを窺わせる。

 

◇ドゥテルテ大統領はアメリカとの決別を明言。暴言に見えるがアメリカの凋落を示すものか。(読者に感謝)

 

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2016年10月20日 (木)

人生意気に感ず「天明の大噴火が来る。シリアの少女がふるさと塾に。トランプ溶ける」

 

 ◇浅間の沈黙は不気味である。18日周辺自治体は会合を開き、大規模噴火時のハザードマップ作成を始めた。周辺自治体は長野原町、嬬恋村、軽井沢町などである。

 

 先日、嬬恋郷土資料館で、松島栄治元資料館長の説明を開いて、大噴火の恐ろしさを痛感した。天明3年(1783)の空前の大噴火から143年が過ぎた。日本中の活火山が活発に動き出している。東日本大震災の影響があるかもしれない。

 

 江戸、大阪までも、昼に提灯をつけたと記されている。想像を超えた地獄が身近に起きた歴史を今こそ教訓として学ぶべきだ。

 

◇超過激なイスラム国(IS)との攻防が大詰めを迎えているのか。ISはイラクからシリアにかけて支配し、国家を宣言している。その影響力は全世界に広がるようであり、その新たな戦いぶりは、第三次世界大戦とも言われている。そのISの拠点モスル奪還に向けて激戦が展開されている。このモスルが落ちれば、ISが支配する主要都市は、ISが「首都」と位置づけるシリアのラッカである。

 

 内戦のシリアから二人の若者が前橋の日本語学校に留学している。一人は、ダマスカスのハナンさん、もう一人はアレッポのマフムード君である。

 

 今月のふるさと塾(10月29日、日吉町1丁目の総合福祉会館、PM6時半)のテーマは、「イスラムの世界とテロ」である。ここにハナンさんが登壇して、母国を語ることになった。きっかけは、先日の入学式の後の歓迎会に於ける見事なスピーチであった。巧みな日本語とその見事な内容に驚いた私はその場で彼女の席に近づき、交渉したのである。「塾」では質問に答えてもらうことも考えている。

 

 私が名誉学院長を務める「日本アカデミー」では800人もの留学生が学ぶが、教育の目的に世界の平和を掲げている。多くの留学生が日本という国の素晴らしさを認めている。彼らの目は、私たち日本人が気付かない所も見ている。彼らから逆に日本の姿を学ぶことも大事なのである。ハナンさんが何を語るかを私は期待している。

 

◇大統領選が最終局面を。米誌タイムは表紙にトランプの溶けて崩れた似顔絵を掲載。完全なメルトダウンの見出しである。オバマ大統領は「泣き言は止めろ」と批判。最終の討論会の結果に大きな興味が示される。(読者に感謝)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2016年10月19日 (水)

人生意気に感ず「新潟知事選と原発の行方。百歳の祝い。生前退位とは」

 

◇新潟知事選の結果は大きな衝撃波となって列島を揺るがしている。世界を震撼させた福島第一原発事故は5年半を過ぎても収束しない。しかも、それは天災ではなく人災であることが国会事故調査委員会の検証で明らかになった。いわば、国家と東京電力の国家的犯罪ではないか。コストの安いエネルギーというのは、事故処理の状況を見れば明らかに欺瞞と言わねばならない。しかも、地震の巣の上にある列島は、地震の活動期を迎えている。保守的な新潟県民もさすがに冷静な判断を示したというべきだ。7月の鹿児島県知事選の結果と合わせて、衝撃波は増幅するに違いない。

 

 電力消費の家庭のコストが上がり、企業の発展にブレーキとなることが考えられるが、人命の方が重要ではないか。日本の技術力をもってすれば、この困難を乗り越えて、新しいビジネスが無数に現われることが期待できる。そして、重要なことは、政治の信頼を回復して、民主主義の基礎を固め、国民の心を健全な方向で一つに出来る点だ。

 

◇百歳の祝いに参加。群馬県海外移住家族会名誉会長の生方大六さんは健康長寿で百歳を迎える。一世紀を生き抜いた巨木の姿を私はまじまじと見た。酒を飲み、料理をうまそうに食べ、きちんと挨拶する。百歳が珍しくない時代であるが、これ程立派な姿はそう多くはない。

 

 海外移住家族会は、海外に移住、特にブラジルに移住した家族を支える会である。ブラジルは最も遠い国。しかし、ある意味で最も近い国ともいえるのだ。私は次のように挨拶した。「日系人は私たち以上に日本の文化と伝統を大切にしています。リオ五輪で日本人選手の活躍に私たち以上に熱い声援を送りました。生方さんには、次の東京五輪まで健康長寿を続けて欲しいと願います」

 

 ブラジルの話に花が咲いた。最悪の治安の国でよくテロを免れたと話題になった。日常的に起きる凶悪事件も犯人が上らないことが多い。

 

◇平和国家、そして文化国家日本の存在感が高まる中で天皇の役割の大きさを感じる。天皇は平和と文化の象徴だからだ。多忙を極める中で「生前退位」が真剣に議論されることになった。有識者会議の初会合が開かれた。公務の増大と高齢はこのままでは両立しない。生前退位は天皇の意向であると同時に日本の姿を問うことだ。(読者に感謝)

 

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2016年10月18日 (火)

人生意気に感ず「鎌原観音堂の衝撃。天明の泥流に呑まれた美人。ポンペイの比ではない」

◇16日、「紀の会」の研修ツアーは参加者の心にずしりとした成果を感じさせるものだった。私は前日に続く吾妻入りである。今回の研修には、歴史家であると共に考古学者でもある松島栄治さんが参加した。

 コースは、金井東裏遺跡、八ツ場、楽泉園内の重監房、鎌原観音堂(資料館)で、バスの中の話は、私が重監房、松島さんが天明の悲劇を担当した。

 松島さんは、嬬恋郷土資料館の元館長であり、また鎌原村の発掘では、自ら発掘に当たった人だけにその話は実に面白かった。

「天命の生死を分けた十五段」とよく言われる。泥流に追われ、観音堂の石段を必死に登る人々。二人の女性の遺体はあと僅かの所で泥流に呑まれた悲劇を物語っていた。二人の女性は「眼窩が高く鼻筋が通った大変な美人」と書物にあるが、どうしてそこまで分かるのか不思議に思っていた。松島さんの説明によれば、発掘時、白骨化しておらず髪の毛と顔の皮膚まで残っていたという。空気に触れて急に耐えられない程の異臭を放ったという。二つの遺体の位置から若い女性は老女を背負って逃げたことが分かる。若い女性自分だけなら助かったに違いない。段の上から「もう少し、頑張って」と叫ぶ人々の姿が目に浮かぶ。段の上の観音堂に逃れて生き残った人々は93名。「妻なき人の妻となり、主なき人の主となり」と大和讃は語る。天が崩れ落ちた中の極限の世界で、新しい家族の形成が行われた。「過去は一切忘れ、新しい一歩を踏み出すのです」。村長はこう語り、人々は黙って頷いた。私はこういう光景を想像する。生きるための窮極の知恵である。親が子を殺し、子が親を殺す。物欲のために騙し裏切り殺し合い、地域社会は音を立てて壊れている。

 観音堂の悲劇と再興の物語は、現代社会に何を訴えているか、謙虚に耳を傾けるべきではないか。

◇浅間は不気味な沈黙を続けるが、それは何か意味があるに違いない。東日本大震災により、日本列島は大災害の時代に入った。防災は心の問題である。鎌原復興の物語から学ぶことは余りに大きい筈。ほとんどの小学生、中学生がこの事実を知らないというのは教育行政の怠慢ではないか。日本のポンペイと言われるが、人間史的意義はポンペイの比ではない。この問題を取り上げる絶好の機である。(読者に感謝)

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2016年10月17日 (月)

人生意気に感ず「暗夜の六合を歩く。100キロ強歩に挑戦。新潟知事選と原発」

 

 ◇最高の満月を見た。15日、午前0時過ぎに吾妻の六合に向かった。白根開善学校の100キロ強歩である。八ツ場の建設現場を過ぎる頃、満月は、黒い山の端をうっすらと浮き上がらせた。白砂川を北上し、道の駅六合に午前2時につく。ここで開善学校の迎えの人と3時に会う約束。私はここに車を置き、開善学校からここまでの約16キロを歩く予定であった。約1時間寝た。外は3度、迎えの車に乗って尻焼温泉に出て、断崖のわき腹をえぐるような細い道を進む。白い湯気がうっすらと昇っている。上を見てはっとした。見たこともない大きな満月である。樹間から黒い山並みの上に半ば顔を見せた光景はおとぎの国のようだ。開善学校に近づくにつれ月は山頂を離れ青い光を放って下界を照らしていた。外は0度。 

 

 生徒は、午前4時に一斉にスタート。腰につけた熊除けのベルがガランガランと響く。先導者が前方で、時々ドカーンと爆竹を鳴らす。今年は熊の出没が異常に多い。空を見上げると、天の川がはっとする程美しい。晴天と寒気等の好条件に恵まれた。5時を過ぎる頃、前方の東の山の端が白くなってきた。白砂渓谷に出て、流れに沿って下ると、私の小説に登場する湯川、荷受場に至る。草津に通じる国道292号に出て、6時過ぎ、道の駅六合に着く。16.58キロを支えた私の脚は健在で、来月3日の「ぐんまマラソン」10キロの前哨戦の役割を果たした。車で下ると、赤岩の辺り、一人の少女が黙々と歩いている。窓を開けて「頑張れ」と声を掛けると、にっこりした笑顔が返ってきた。

 

◇原発再稼働反対派勝利に驚く。新潟知事選は、まさかの結果となった。鹿児島知事選に続く原発異変。7月、川内原発の一時停止を求める三田園氏が当然し、原発反対派を勇気付けていた。今回の新潟県の動きは、今後原発反対の世論形成に影響を与えるに違いない。安倍政権に大きな痛手となる。

 

 米山新知事は「皆さんの命と暮らしを守れない現状では再稼働を認めない」と明言した。田中角栄は天国でこの結果をどう見ているか興味がわく、田中眞紀子も影響力を示すことが出来なかった。新潟は地震県である。多くの有権者は、まだ収束していない福島第一原発事故と多発する県内地震状況を判断材料にしたことは間違いない。この結果を群馬県民は重く受け止めねばならない。刈羽は越後山脈を隔てて近い。群馬は実質的に原発県なのだ。(読者に感謝)

 

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2016年10月16日 (日)

小説「楫取素彦物語」第174回

モルフィ穂積博士と会う

 

 

 

 

 

 待ちに待ったモルフィの元に楫取からの連絡が届いた。東京帝国大学で会うというのだ。モルフィは、神に感謝し良い成果が得られるようにと手を合わせて祈った。

 

「アメリカ人宣教師のモルフィと申します」

 

「楫取さんから紹介状をいただきました。外国人で廃娼に尽くされておるとは殊勝なことです。群馬の廃娼の責任者は楫取さんです。自分が播かれた種を、日本人が疎かにしているというのに外国人が真剣になっていると言って大変感謝してられます。私に出来ることは協力いたしましょう」

 

「ありがとうございます。私は遊郭の女たちを見るのが耐えられません。同じ人間です。神は許しません。私は救済の手段を考えて悩みました。アメリカならとっくに訴訟になっています。日本で訴訟は一般的ではありませんが、それだけに、勝訴した時の効果は大きいと思います。三権の一角を占める司法の意思が示されるのですから。訴訟を始める場合の論理のポイントについて御示唆いただければと思います」

 

「伝道師だけあって、日本語が巧みなのに驚きます。日本の法律論も理解いただけそうなので安心してお話しいたしましょう」

 

 穂積陳重は書棚から一冊を取り出し開いて一点を指で差して言った。

 

「これは、明治五年の太政官布告第二九五号です。日本の人権規定の原点です。娼妓契約という、人間を奴隷的に扱う契約の効果を否定したものです。これは非常に重要な法律であるにも関わらず、骨抜きにされ、守られなかったことは残念でありました

 

モルフィは、メモをとりながら一言も聞きもらすまいと耳を傾けた。

 

世界の文明国に仲間入りしたにも関わらず、文明国の基本である法治主義が行われないというのですから世界に対して恥ずべきことでした。例のマリア・ルーズ号事件の最中に出したことは世界に対する人権尊重の宣言を意味したのに、守らなかったと言われても仕方がありません

 

モルフィは大きく頷いた。

 

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

74回

 

 

モルフィ穂積博士と会う

 

 

 待ちに待ったモルフィの元に楫取からの連絡が届いた。東京帝国大学で会うというのだ。モルフィは、神に感謝し良い成果が得られるようにと手を合わせて祈った。

「アメリカ人宣教師のモルフィと申します」

「楫取さんから紹介状をいただきました。外国人で廃娼に尽くされておるとは殊勝なことです。群馬の廃娼の責任者は楫取さんです。自分が播かれた種を、日本人が疎かにしているというのに外国人が真剣になっていると言って大変感謝してられます。私に出来ることは協力いたしましょう」

「ありがとうございます。私は遊郭の女たちを見るのが耐えられません。同じ人間です。神は許しません。私は救済の手段を考えて悩みました。アメリカならとっくに訴訟になっています。日本で訴訟は一般的ではありませんが、それだけに、勝訴した時の効果は大きいと思います。三権の一角を占める司法の意思が示されるのですから。訴訟を始める場合の論理のポイントについて御示唆いただければと思います」

「伝道師だけあって、日本語が巧みなのに驚きます。日本の法律論も理解いただけそうなので安心してお話しいたしましょう」

 穂積陳重は書棚から一冊を取り出し開いて一点を指で差して言った。

「これは、明治五年の太政官布告第二九五号です。日本の人権規定の原点です。娼妓契約という、人間を奴隷的に扱う契約の効果を否定したものです。これは非常に重要な法律であるにも関わらず、骨抜きにされ、守られなかったことは残念でありました

モルフィは、メモをとりながら一言も聞きもらすまいと耳を傾けた。

世界の文明国に仲間入りしたにも関わらず、文明国の基本である法治主義が行われないというのですから世界に対して恥ずべきことでした。例のマリア・ルーズ号事件の最中に出したことは世界に対する人権尊重の宣言を意味したのに、守らなかったと言われても仕方がありません

モルフィは大きく頷いた。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

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2016年10月15日 (土)

小説「楫取素彦物語」第173回

 楫取は不思議そうに異国人の顔をのぞきこんだ。

「あなた様は議会という公的制度を利用された。私は裁判所という公的制度を使おうと思うのです。アメリカは訴訟の国です。ある事件で勝利した効果は絶大なのです。国家の意思として、同種の事件に波及するからです。そこで、日本の法律と裁判について勉強を始めましたが、外国人である私は、思うようにいきません。楫取様に何か良い案があれば教えていただけないでしょうか」

 楫取は先程から、この初対面の奇妙な異人の姿にじっと視線を注ぎ考えていた。

「廃娼のことは、いわば私が播いた種です。それが伸び悩んでいることは、実は、不満の種であった。その時にあなたのような異国人が廃娼に燃えておられるとは。どうも不思議な気持ち。そして、何とがたいことかと感謝しております。出来るだけの協力をせねばなるまい。今、なたは、法律を勉強して訴訟で戦うと言われた一つ、法律の大家を紹介申し上げよう

「エッー、それは本当ですか。誠にがたいことで、僕は大変嬉しいです。で、誰をご紹介くださるのですか」

 モルフィは瞳を輝かせて言った

「そうですな、今、頭にあるのは、東京帝国大学教授の穂積陳重博士です。現民法の起草に関わった民法学の権威で、が尊敬している学者です。お会い下さるかどうか博士に聞いてみて、紹介状いてさしあげよう。追って連絡申し上げます

 モルフィは感激して楫取の手を握って言った。

「ありがとう、ありがとう、神の導きです」

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

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2016年10月14日 (金)

人生意気に感ず「政治の嵐。新潟、福岡、東京と。都議会が幕。トランプのあがき」

 

 ◇にわかに政治が泡立ってきた。衆院解散と総選挙の風が日増しに強くなっている。それと合わせるように、新潟知事選、福岡6区と東京10区の補選が進む。小池知事と都議の対決も勿論、政治の嵐の中心である。 

 新潟県の知事選は原発の今後が掛かるので全国の注目が集まっている。柏崎刈羽の原発を巡り、突如名乗り出た再稼働反対候補が、楽勝と思われていた再稼働推進候補を猛追し、横一線となっている。

 

 私は刈羽に何度も足を運んだ。また、万一の時の本県に及ぼす影響について県会で何度も取り上げた。もし、再稼働反対候補が勝てば、我が国の原発政策に重大な影響を及ぼす。福島第一原発の事故は5年以上経つがまだ収束せず、賠償を含めた膨大なコストは、原発は安い電力をつくるという説明が破綻していることを物語っている。

 

◇二つの衆院補選は迫る総選挙の前哨戦として重要であることの他に、候補者の人物像と出馬に至った因縁が面白い。福岡の鳩山氏は、怪人とも言われた故鳩山邦夫の跡継ぎで、東大卒が当たり前の鳩山家の流れも終わったと下世話に語られる人物である。一方、東京の若狭氏は、自民の国会議員中唯一人、小池知事を応援し、大いに男を上げた人物だ。

 

 プーチンとの北方領土を巡る会談も歴史的展開があるようで、自民には有利な条件が整う方向で進んでいるように見える。

 

◇都議会が閉会した。地方議会がこんなに注目されたことはない。形骸化が叫ばれる地方議会を象徴した存在だからだ。地方議会改革の津波が全国に波及することは間違いない。

 

 豊洲移転は未解決で、いよいよこれからが本番といった感じ。問題の中心に石原都知事が居たことは明らかで、窮地に立たされている。このまま大魚を見逃せば、小池知事は都民はおろか、全国民の期待を裏切ることになるし、地方議会の改革も掛け声倒れになる。

 

◇米の大統領選がいよいよ大詰めだが、世界を一つにしたような巨大劇場は意外な結末を迎えようとしている。党の候補者と決めた共和党がトランプを引きずり下ろそうとしている。女性を軽蔑した発言のために大統領の資質が問われている。この発言がこれほど大問題になるのはアメリカなるが故だ。建国の精神は人間の平等である。肌の色、性の差別は建国の理念に反する。これを理解しない人は多いはずだ。(読者に感謝)

 

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2016年10月13日 (木)

人生意気に感ず「短大で人生を語る。二つのマラソンと強歩。八ツ場と重監房」

 

 ◇昨日、ある短大で講演した。自分の人生を語れという注文。孫のような若者を前に改めて時代の変化と自分が長い人生の道のりを歩いたことを感じた。私の人生の時代背景も語り激動の昭和史の一端を彼らの胸に刻みたいという思いがあった。 

 

「私の生まれは、昭和15年1940年で、翌年太平洋戦争が始まりました。昭和20年8月の前橋大空襲をよく覚えています」

 

 こんな切り口で語り始め、「前橋の一番熱い日」という紙芝居を演じた。去る8月5日、数百人の留学生に話したことで、目の前の学生たちは興味を示していた。

 

「私は間もなく76歳ですが、現役の人生の闘士です。あの空襲の後、赤城山に開墾生活に入りました。高校は定時制で働きながら英語のリーダーを暗記し、山谷のドヤ街から受験し東大に入りました」

 

 元東大総長林健太郎先生との出会いも語った。初めて県議選に挑戦した時、先生が県民会館の集会に手弁当で駆け付け、歴史を活かした政治家になれと励ましてくれた光景が鮮やかに胸に甦っていた。

 

「昨年、7期の県会議員を引退し、今、新しい人生です。人生は何度でも新しい心で挑戦するものです」と訴えた。

 

◇毎日が矢のように過ぎる。昨日は「紀の会」研修ツアーの打ち合わせをした。16日40人の会員と、八ツ場、草津の重監房、鎌原観音堂を巡る。朝8時半の出発だが、私は前日、白根開善学校の「百キロ強歩」に参加する。午前4時にスタートして約20キロ歩く予定である。10月27日は警察マラソンに出て、翌11月3日はぐんまマラソンで10キロを走る。今年は節制に努め、体重を5キロ減らしたため日常の動作が軽い。健康診断では血糖その他の数値がよくなっていた。先日のダマスカスの少女ハナンさんの言葉が私の血をかき立てる。「日本は広島と長崎で壊滅したのに立ち上がり別の形の戦いで世界でもトップの国になりました。私は勇気をもらいました」

 

実はこのハナンさんのことを短大でも紹介した。ハナンさんは今月29日の「ふるさと塾」に登場する。

 

◇「ちきしょう」と心に叫びコンプレックスと闘いながら走った私の人生はいよいよ本番なのだ。立ちはだかる高齢の巨峰には、認知症、脳こそくなどの怪物が待つだろう。(読者に感謝)

 

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2016年10月12日 (水)

人生意気に感ず「留学生の入学式で。ダマスカスの少女。留学生とだんべい踊り。今月のふるさと塾」

 

 ◇11日、日本アカデミー10月期生入学式が行われた。231名の国際色は豊かで、最多は中国であるが、カメルーン、バングラディシュ、シリアなどの民族衣装が目を引いた。カメルーンといえば、赤道に近いアフリカの国である。また、シリアといえば戦乱に明け暮れる地。マフムード君はアレッポ、ベールを被ったハナンさんはダマスカスの出身である。 

 

 私は「国際化時代です。世界は一つ。みな友だちです。日本の文化を学んで下さい」と挨拶した。入学式の後、ロイヤルホテルの大広間で懇親会が行われた時である。胸を打つサプライズが起きた。美しい少女が壇上に進んで流暢な日本語で滔々と話し始めたではないか。ダマガスカス出身のハナンさんである。

 

 話の中味は、より素晴らしい。「日本人はあきらめない。広島、長崎で滅ぼされたのに、別の形で戦って世界でも最も素晴らしい国の一つになりました。私は日本から大きな勇気をもらいます」というもの。

 

 私は胸に閃くものがあって彼女のテーブルに近づいて言った。「今月29日、ふるさと塾であなたの国のことを話してくれませんか」にっこりと笑顔で快諾した。

 

 今月の私のふるさと塾のテーマは、「イスラムとテロ」である。十字軍だと叫び、連日、世界のどこかで自爆テロが行われている。第三次世界大戦が始まっていると言う人すらいる。私たちには理解できないことが余りにも多い。無知が偏見を生んでいる。ふるさと塾で分かり易く話そうと思っていたところなのだ。今月の塾はハナンさんの登場で良い中味になるに違いない。尚、もう一人のシリアの若者、マフムード君は入学生代表の一人として立派な挨拶をしていた。日本の若者よ負けるなと心に叫んだ。

 

◇9日の前橋まつりの日、早朝、敷島公園の池で中国帰国者のマス釣り大会があった。中国人は魚釣りが好きだ。この大会も恒例となっている。太公望の故事は中国の伝統文化の深さを示すものだろう。江戸の川柳「釣れますかなどと文王声を掛け」を思いだす。今、中国人に求められるものはこの余裕ではないか。

 

 この日の午後、日本アカデミーの生徒数十人がだんべい踊りに参加した。彼らはすぐにリズムを覚え、楽しそうに舞っていた。国際交流に難しい理屈は不要である。(読者に感謝)

 

※来月7日から上毛で私の長編小説「死の川を越えて」が始まります。

 

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2016年10月11日 (火)

人生意気に感ず「死刑廃止採択を考える。ハリケーンの大型化。阿蘇の爆発。北の脅威」

 

 ◇日弁連が死刑廃止宣言を採択した。凶悪犯罪は増えている。国民の8割近くは死刑を支持している。その多くは感情論に支えられていると思う。死刑に犯罪抑止効果はあるか。私の感覚では「あり」だ。しかし、冤罪、つまり無実なのに執行される例、これは必ずあるに違いない。保存されたDNAにより、冤罪が判明する可能性は大いにある。それに目をつぶるのか。 

 

 国家が人を殺すことをどう考えるか。死刑は理念の問題である。哲学の領域につながる。廃止に反対する立場の論拠の一つに、被害者の立場を考慮すべしというのがある。それは、ある程度当然だが、私は本質からは外れた論点だと思う。

 

◇死刑の執行は絞首である。憲法は残虐な刑を禁じるが、現行の絞首は残虐でないとするのが判例だ。しかし、残虐か否かは、執行の瞬間だけで論ずるべきでない。待つ時間は大変で、死刑囚は自分の扉の前に足音が止まるかどうか凍る思いで聞き耳を立てると言われる。

 

 現行は刑の選択肢が限られる。微妙な場合に死刑と無期には差があり過ぎるから無期には出来ないとなる。無期は終身刑とは違い、10年もすれば出られる可能性がある。だから死刑廃止論は終身刑の採用とセットで語られる。終身刑が残虐だという考えがあるが決してそうではないと思う。トルストイは、死刑を身近に感じた時、たとえ一尺四方の場所でも与えられて生きたいと願ったと書いた。

 

 また、更に死刑と裁判員制度は両立が難しい。素人の民間人に死刑の判断を求めるのは無理である。死刑の存廃は、結局人間尊重の文化国家の決断の問題である。中国や北朝鮮とは違うことを示すべきだと思う。

 

◇カリブ海の超大型ハリケーンでハイチの死者は877人を超えた。日本も瞬間最大風速80mの時代になった。温暖化で地球全体が狂い出したと見るべきだ。便利な」生活を求める人類の歩みは止まらない、文明観を変えなければ前途には滅亡の渕が待つ。ムヒカの警告を読んだ。

 

◇阿蘇が爆発し噴煙が1万mを越え灰が隣県大分にまで降り大分の人は、50年の人生で経験したことがないと語った。熊本地震と無関係なのか。阿蘇は太古、カルデラ火山の悪夢がある。

 

◇10日、北は何かをやろうとしている。心配だ。

 

◇来月7日から週2回、上毛で私の長編小説「死の川を越えて」の連載が始まる。(読者に感謝)

 

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2016年10月10日 (月)

小説「楫取素彦物語」第172回

 モルフィの自由廃業

 

 

 モルフィは、明治二六年(一八九三)に来日した米人宣教師で彼の使命はキリスト教の布教によって人々を救うことであった。日本に上陸して先ず目についたのは郭に閉じ込められて醜業に従事する女性たちの姿だった。彼は真剣にこの問題を研究した。そして、明治五年の太政官布告で禁止されたはずの人身売買が、貸座敷と名を変えて広く行われていることを知った。業者の悪徳ぶり、悲惨な女たちの実態、それを認めている政府の欺瞞ぶりは、モルフィの正義感に火をつけた。

 また、研究の過程で、モルフィは、群馬の廃娼運動を知った。その上でモルフィが抱いた大きな疑問は、群馬がこれだけの業績をあげながら、全国に広がらないのはなぜかということであった。そして、このような現実に対する効果的な攻撃方法はないかと悩んだ。

 そしてモルフィは、はっと気付いた。

そうだ、楫取素彦貴族院議員に会おう。当時の群馬のことを聞ければ得るところがあるに違いない

 請願の文書を書いて貴族院事務局に申し込むと、暫くして、日時を指定して会おうという通知が来た。勇躍して出かけたモルフィは帝国議会の一室で楫取と会った。

「アメリカの宣教師モルフィと申します。廃娼運動に取り組んでおります。つきましては群馬の廃娼運動についてお話をお聞きしたいのですが」

「おお、アメリカの方が廃娼に取り組むとは奇特なこと。これは大変な問題です。いくら年月が経てもなかなか解決しにくい問題がある」

「明治十五年に廃娼を決めたということは素晴らしいことですね。私は群馬に学んでこの廃娼のことを全国に広げたいと思います。群馬で成功した理由は何ですか」

「そうですな。議会に熱心な人たちがいたことだろうか。あなたのようなキリスト教徒の議員が何人かいて議会を指導していた。彼らは宗教は表に出さなかったが、人間を大切にしたいという高い理想を強く主張してた、それには逆い難い力が込められていた。私はキリスト教ではないが、同じ人間平等の信念をもっていたので、議会の結論を実施しようと決心したのです。振り返って思うことは、議会の熱心な主張が外の世論に火をつけたことです。県民が強く支持したことが重要った。議会内の真心こめた主張と命がけの行動が広く波及した。あれは新しい時代の地方議会の模範であった。私は群馬の議会を離れ、中央から地方の政治を眺める時、このことを痛切に感じます」

「なるほど。それは感動的なことで、また、本質的な事を教えています。私は自分の体験から、一人一人の娼婦を救うことでは限界があって前に進まないことを知りました。そこで、群馬とは、方法が違っても、本質に迫る点で共通する作戦を思いついたのです」

「ほほう、外国人のあなたが気付いたこととはいかなることですかな」

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

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2016年10月 9日 (日)

小説「楫取素彦物語」第171回

 

「私は宣教師として、日本の不幸な女性を救うことを神様の命令と考えました。その時、群馬県の人々が大変な苦労をして、廃娼県を実現したことを知り、随分と勇気づけられたのです。

 群馬の知事、県議会の人々、キリスト教徒、若者たち、みんなが力を合わせて廃娼県を実現したことを知り、私は日本人の良識を信じました

人々は異人が日本人を誉めることに不思議な興味を示した。

そして、この動きを日本全国に広めるためどうしたらよいか一生懸命考えました。そして、私が発見した方法は裁判を利用することでした。裁判に訴えて一人の娼婦を廃業させることに成功しました。裁判に勝つ効果は誠に大きいのです。そこに行きつく迄に、私は暴漢に襲われて顔中血だらけになったこともありました。私の奥さん、驚いて気絶しました。皆さん、私の努力を参考にして生かしてください。力を合わせて闘いましょう」

 会場にどよめきが起きた。人々には、異国人が日本人女性のために命をかけることがにわかには、理解出来なかった。しかし、心を打つ感動の物語であったのだ。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

 

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2016年10月 8日 (土)

小説「楫取素彦物語」第170回

明治三九年十一月九日、午後七時より、前橋市の赤城館で矯風大演説会が開かれた。聴衆は開会前から押し寄せ、入場を制限する程であった。聴衆の関心を集めたのは、外国人宣教師モルフィだった。当時、外国人は地方都市前橋市の人々にとって珍しい存在だった。前宣伝には、「我が矯風史上の勲功者・娼妓自由廃業の偉績者・モルフィ氏」とあった。

一体何を語るのか。人々の好奇の視線を集めて、登壇したモルフィは、流暢な日本語で語り出した。

「公娼制のない前橋に来て矯風演説をなすは極楽にいって説教をなすようなものですが、今、公娼制を置こうとする動きがあると聞いては、一言、発言しないわけには行きません」

 モルフィはこう切り出した。これは、日露戦に勝利して日本が軍事大国としての歩みを進める社会情勢と関係していた。国は軍備拡大と平行して遊郭の設置を図ろうとしていた。群馬県では明治三八年、高崎市は、高崎連隊のために公娼を設けようとしていた。日露戦争の直後のことである。公娼により梅毒蔓延を防止せんとする理屈であり、かつて県議会で議論されたことの蒸し返しであった。

 モルフィは叫んだ。

「戦勝の勢いに乗って遊郭を新設すれば、戦争がいよいよ文明の破壊者であることを示すことになります。私は廃娼県群馬の名誉のために、日本の女性解放を一層進めるために、私の経験を、敢えて、皆さんの前で話します。皆さん、聴いてくれますか」

 ワーツと賛同の拍手が起きた。人々は紅毛碧眼の外国人が流暢な日本語で群馬の名誉を語ることに異常な関心を示した。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

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2016年10月 7日 (金)

人生意気に感ず「暴発が近い北。解散風と北方領土。大統領選の行方」

 

 ◇国の政治体制の違い、文化の違いが国民の幸せにいかに大きく関わるか。このことをこの度のノーベル賞でつくづく思う。北朝鮮は核を開発し、アメリカをも脅かす弾道弾をつくって科学の力を誇示しているが、多くの国民を飢えさせていることを恥と思わないのか。北朝鮮の国民は、日本のノーベル賞受賞をどう受け止めているのだろうか。 

 

 金正恩の暴走は止まらない。裸の王様には真の忠臣はいないのだろう。側近を次々と処刑する恐怖政治も限界に近づいているらしい。政治の中枢を担う高官の脱北が加速している。その上に、最近の異常気象による未曽有の台風は農業に壊滅的被害を及ぼした。非道の政治を天も許さないことを示すようだ。

 

◇窮鼠猫を噛むという。金正恩の暴発の日は近いと思う。機械人形のように行進する兵士の姿は一見鉄の団結力を示すが、信頼のない独裁者の国は脆い。それは歴史が教える事実である。異状に太った体重は130キロで、専門家は糖尿病と痛風と見ている。核を振りかざす足下は風前の灯ではないか。核では生存できないことを思い知らされる日は近い。北朝鮮で行進している事態は日本の安全保障に極めて大きなかかわりを持つと同時に、私たちに限りない教材を提供していると見なくてはならない。

 

◇解散の風が本格的になっている。安倍首相も強く否定しないのが今回の特徴だ。タイミングはプーチンの来日後の来年一月と見る向きが多い。北方領土で点数を稼ぐ意図だがどうなるか心配だ。二島は返すと言っている。それを含んで妥協するのか。

 

 主権に関わる領土で妥協すれば、韓国と中国にも妥協しなければならない、竹島と尖閣で対立する両国は、日露の交渉で日本が妥協するか否かを固唾を呑んで見守っていると言われる。安倍首相の外交が比較的うまく進んでいる時だけに、心配である。

 

◇アメリカの大統領選が大詰めである。これは何を意味するのか。地球的意味で政治の空白が生まれていることだ。チャンスと狙って既成事実を作ろうとする国がある。次期大統領の可能性が高まっているクリントンは、大統領となった場合大丈夫だろうか。TPPをどうするのか。米大新聞百社のうち、クリントン支持表明は17社に対しトランプはゼロだという。アメリカは新聞社が堂々と支持者を明らかにする。(読者に感謝)

 

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2016年10月 6日 (木)

人生意気に感ず「都議会炎上。解明はどこまで。GPS捜査と大法廷判決」

 

 ◇全国の目が都議会に注がれている。小池知事は、「なれあい」「議会の形骸化」に一石を投ずることが出来るのか。空前の混乱と激戦を制して登場した女性闘士に好奇の目と期待が集まる。彼女を際立たせているのは、傲慢不遜な石原慎太郎や「せこい」と物笑いとなった舛添要一などのお陰といえる。 

 

 「豊洲移転問題などが議会に説明される前に発表されたのは議会軽視だ」と自民党が追求した。あれ程騒がれながら議会がその使命であるチェック機能を果たせなかったことを考えれば、この追求は的外れだと思う。

 

 部分的に見れば、軽視に当たるかも知れないが軽視されて当然ではないか。都議会は今、全国の地方議会を代表して批判の矢に晒されている。全国の地方議会は他山の石として自らの姿勢を正さねばならない。

 

 イギリスの諺に、地方は民主主義の学校というのがある。日本の現状は、学校崩壊の危機に直面していると言わねばならない。

 

◇小池知事は、豊洲に盛り土がなかった問題で関係幹部10人以上を懲戒処分することを明らかにした。退職者も含めて検討するという。退職者に対して、内容によっては給与の自主返納を促すというから厳しいものだ。マンモス行政の自浄機能を発揮するためには、真相解明への一般職員の協力が求められる。内部告発をやりやすくする制度が公益通報制度。都は近くこの制度を整備するという。

 

◇調査への協力を表明していた石原元知事は、一転拒否した。都議会では談合疑惑も追求される。都議会炎上の感。解明はどこまで進むか。

 

◇GPS捜査の適法性が大法廷で審理される。連続窃盗事件の上告審である。衛星利用によって追跡する車の位置が分かるのだから、警察とすれば有力な武器。犯罪が巧妙化し、犯人は高速移動する時代。捜査もハイテクで対応しなければならないのは当然だ。

 

 問題は人権保護の観点である。適正な司法手続きを踏まねばならない。強制捜査に当たれば捜査令状が必要というのが法の定めであるから、車にGPSを付けることが強制捜査に当たるか否かが問われる。

 

 最高裁小法廷は、問題の上告事件を大法廷に回した。大法廷への回付は、憲法判断、判例変更、重要な論点が含まれる場合に行われる。下級審は、この強制に当たるか否かで判断が分かれている。私は大いに注目している。(読者に感謝)

 

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2016年10月 5日 (水)

人生意気に感ず「ノーベル賞の快挙。今後の心配。中国・北朝鮮は?猛烈な台風」

 

 ◇ノーベル医学賞は正に快挙である。暗い重苦しいニュースばかりの中で、私は本当に嬉しかった。インタビューの時、大隈さんの後ろに近づいてスーツをかける人がいた。奥さんらしい。二人三脚でこつこつ研究してきたであろう姿が想像された。3日の午後6時過ぎ、日本列島に明るい喜びの衝撃が走った。 

 

 東大教養学部基礎科学科卒である。東大は2年迄は駒場で、3年からは本郷に進むが、教養学部の「教養学科」はそのまま駒場に残る。基礎科学科は「教養学科」の中の一部門である。懐かしい駒場の光景が甦った。

 

◇日本の教育の成果に違いないが、これが今後も続くのか心配である。ノーベル賞の人たちは、ほとんどが昔の教育環境で育った人である。現代の教育は多くの問題を抱えている。

 

 目先の利益に目を奪われず、こつこつと地味な長い努力に耐える精神が若者に育っているか心配なのだ。

 

 日本のノーベル賞受賞者は25人になった。自然科学の分野が多いことは、日本の物作りの基礎がしっかりしていることを物語る。中国の躍進が目覚ましい。しかし、それは主に軍事産業ではないか。そう思うとノーベル賞という成果は、国の政策や国の文化と深く関わっていることが分かる。北朝鮮は、核を開発し、弾道ミサイルは数千キロを飛んでアメリカを狙える迄に至っていることを誇りにしている。しかし、足下の国民は科学の恩恵に浴していない、北の国民は日本のノーベル賞受賞をどう見ているか知りたいものだ。

 

◇日本のノーベル賞はアジアでは断トツであるが、やがて追いつかれ抜かれるのではないか。私はアジアの留学生を多く受け入れている日本アカデミーの学院長である。アジアの留学生には、昔の日本の若者のように、海外に出て先進国から学ぼうとする気概と志がある。日本の若者は、海外に出ようとしない。冒険心、チャレンジ精神に乏しい。物が豊かになって心は貧しくなった。敗戦から立ち上がった時のハングリー精神と根性は幻となってしまった。

 

◇猛烈な台風18号が久米島を過ぎた。瞬間最大風速は80mと予想された。報道は過去に例がないと警告した。私が敢えてここに書くのは、今後これが常態化すると思われるからだ。弱い心の日本人がかつてない逆風に立たされる。(読者に感謝)

 

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2016年10月 4日 (火)

人生意気に感ず「藤田三四郎さんと話す。生きるに値しない命と安楽死」

◇9月30日、草津の楽泉園を訪ね、藤田三四郎さんに会い、その後重監房資料館を見た。藤田三四郎さんは、白馬という住居にすんでおられ、親しく話すことが出来た。回を重ねているが、この日は、この人の口から、三国同盟とヒトラーのことが出たのには驚いた。

 ヒトラーは、不治の病の者、精神病者などを皆殺そうとした。ハンセン病者も含まれていた。同盟を結んで戦った日本も同じだという口ぶりに見えた。また、ドイツと組んだ関係で、特効薬プロミンが偶然にもドイツから入ったことも話しておられた。戦闘機メッサーシュミットの中に置かれた一冊の医学書が東大の薬学教室に持ち込まれ、プロミンのことが分かる。結核の薬として開発されたプロミンが結核菌と兄弟の関係と言われたハンセン病菌に「驚異的」な効き目があると分かって、その後のプロミン闘争に繋がったと話しておられた。

◇藤田三四郎さんが触れた話は、私の小説の中でも「生きるに値しない命」として、登場する。今の世に、この危険な思想が頭をもたげつつある不気味さを感じる。超高齢社会が進む中で、死が迫っているような人の命をぼろきれのように軽視する考えがある。極めて危険な兆候だ。人権を理解しない世相、そして、人の命を軽く考える人々が勢いを増している。それが日本の社会の病巣と結びついている。

◇最近、知人のある女性が、安楽死のことを口にした。世界には安楽死を認める国もある。法的に認めることのない日本でも、かつて裁判でこれが争われたことがあったし、時々事件が起きている。今、安楽死の問題がじわじわと隣に近づいている。ひとたび認めたら大変な事態に発展する。安楽死と殺人の境は微妙で紙一重である。人命軽視の風潮の中で、堰を切ったように「生きるに値しない命」として処理される恐れが現実となるかも知れない。

 昔、名古屋地裁で、安楽死の要件が論じられた。裁判官は可能性としては認めたが現実には限りなく難しい。今日、この問題をきちんと議論する時が来たと思う。

◇容疑者の絞り込みが難航している。「滴下の速度を調整した可能性」、「未使用分の10袋にも穴が確認」、「同じ日に5人が亡くなった」、「三カ月で4階の患者48人が亡くなった」等、不審なことが多すぎる。ここで働いていた医療従事者が不審に気づきながら行動を起こさなかったとすれば、それ自体が大問題だ。(読者に感謝)

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2016年10月 3日 (月)

人生意気に感ず「巨大都市と滅亡した恐竜。百条委を開け。大口病院の底知れない闇」

 

 ◇10月に入った。熱湯が沸き立つような社会情勢である。北朝鮮、中国、アメリカ、ロシア等、それぞれが難しい国内問題を抱えながら、対外的には最大限の自己主張をして対立している。相対的には、日本は最も安定した国と言われる。その日本も、実態は累卯の危うさではないか。迫る巨大地震、原発、憲法改正、そして渦巻く政治不信と日本人の心の崩壊現象等だ。 

 

◇東京都の豊洲市場移転問題には様々な課題が集約している。巨大空間の危険物質汚染が騒がれている。食の安全と直結している問題である。基準値を超える危険物質が検出された。この巨大空間は首都直下型大地震に対して大丈夫なのか。

 

 自治機能を失った都は、巨大化が滅亡の一因となった恐竜と似ている。巨大化し過ぎて、対応力を失い、自治の機能が発揮出来なくなっている。

 

◇国の真の発展のためには、地方の活性化が不可欠である。それには中央集権から地方分権を進めねばならない。地方分権の最大の妨げの一つが東京への一極集中である。改革のメスを入れ、小池知事は病巣を摘出することが出来るか。都議会が機能不全であることが白日の下に晒された。オリンピックには莫大な費用がかかる。利権が絡んで談合が噂されている。議会はチェック機能を全く果たしていない。石原や舛添をのさばらせたのは議会の責任である。地方自治法にある百条委員会を開くべきではないか。百条委員会には特別の調査権限がある。関係者を証人として喚問し、偽証罪に問えるのだ。石原、舛添等元知事は事の成り行きに怯えているのではないか。

 

 昔の日本では、政治の乱れを罰する為に天が罰として大地震を起こすと、人々は本気で考えた。そして、不思議にも、大きな政治の混乱の時、大地震が起きた。今、首都直下大地震が起きれば、天国の祖先たちは、恐れていた通りだと思うだろう。

 

◇横浜の点滴中毒死事件の闇は底知れぬ不気味さを示している。48人もの人が短期間で亡くなっていることに病院の責任者は不審に思わなかった筈はない。死期が迫った人間の命を紙くずのように考える思想が背後にあるとしたら恐ろしいことだ。高齢者を高層から投げ捨てた事件は未解決であるが、超高齢社会の中で人命軽視の思想が広がっている。このことは何を暗示するのか。心の崩壊現象と無関係ではない。(読者に感謝)

 

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2016年10月 2日 (日)

小説「楫取素彦物語」第169回

私は、群馬に来て、及ばずながら、これを政治の基本に据えて頑張ったつもりです。諸君が反対派の県議を訪ねて真剣に説得する姿、演説会を開いて熱弁を振るう姿を見て、私は、諸君が松陰の言葉を実践していると思い感動したのです。水沼の青年新井領一郎殿が生糸直輸出の道を開くためニューヨークに渡るとき、私は、この言葉を伝えて励ました。私が前橋を去る日、あの大群衆の前に領一郎が現れた時は本当に驚いた。諸君もあの場面を記憶している者があるだろう」

 楫取がここで言葉を止めると、

「覚えています」

「感激しましたぞう」

 会場から声が上がった。

 それに頷いて楫取は続けた。

「領一郎君は、松陰の短刀と松陰の言葉を胸に頑張ってニューヨークで目的を果たしている。諸君、領一郎君のニューヨークの姿は、松陰の姿と思える。松陰の至誠の言葉は、諸君を動かし、海を越えて領一郎君を動かしました。私は今諸君を前にして、私の群馬の八年間が諸君たち若者の手に受け継がれていると思えて嬉しい。改めて心から礼を言います」

 再び大きな拍手が起きた。会場が一つになって燃えた。楫取の姿が若者の用に見えた。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

 

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2016年10月 1日 (土)

小説「楫取素彦物語」第168回

 湯浅は、会場を手で制して言った。

「最後に言いたいことがあります。我々の決議は明治十五年、廃娼令が出たのは十六年でした。思えば、我々は唯、端を開いたに過ぎません。その後を受け継ぐ努力こそ重要だったのです。それがなければ、廃娼の布達も立ち消えになったでしょう。最大の功労者は上毛の青年たち、つまり、諸君のことで。君たちの心意気は、上州の山河と共に永遠に不滅であると信じます

 わあーと拍手が起きた。泣いている若者もいた。興奮の渦に突き動かされるように楫取が再び壇上に立った。

「諸君、もう一度、発言させて欲しい。私は諸君の熱気に浸って、今、青年に戻った思いです。先程、昔の同志を思い出したと申したが、今、私はあの時代に立ち戻った気分です。皆、元気がよかった。死も恐れなかった。強い理想が青年たちの心の柱になっておりました。あの頃の青年たちの心意気を受け継がねばなりません。諸君の姿を見て、その希望が湧いてきました。だから今、私は、吉田松陰のことを話したい。この空気は、松陰を伝えるには絶好の機会です。そして、恐らく、私が、若者に松陰を語る最後の機会になると思うのです

 意外な事態の展に若者たちは驚き、会場は静かになった。若者たちの視線は楫取の口元に集まった。

「私の義兄松陰は安政の大獄に連座して三十歳でこの世を去りました。新鮮で強烈なつむじ風ような人生でした。下田沖の黒船に乗り込んだ姿は松陰の人生を象徴するものでた。信じたことを実行した男でた。松陰が死ぬ前に言い残した言葉があります。それを諸君に伝えたい

ここで、楫取は一呼吸おいて会場の若者たちを見詰めた。人々は、楫取の口から何が飛び出すかと待った。

「誠にして動かざるは未だ有らざるなり。誠を尽くして感動しないものはないという意味です。黒船にもこの信念体当たりしました。松陰は私に言ったのです。新しい世界が来る。刀で物事を決着させる時代は去って、話し合いの時代になる。人とも頻繁に接触する世になる。文化も言葉も異なる。しかし誠意は通じるのだ。それを実践して欲しいと言い遺しまし

会場はしんと静かになり、あちこちで頷づく顔が見えた。

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

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