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2016年8月14日 (日)

小説「楫取素彦物語」第153回

「私は明治五年九月政府へ廃娼の建白をした。先ず、その理由を諸君に話したい。私たちは、ペルーに運ばれる中国人奴隷を解放した。ペルーとの間で裁判になり、政府は特例をもって、この大江を裁判長に任じた。中国人を奴隷にしたことを理由に賠償請求を拒否するこの裁判で、ペルーの法律家は日本にはもっと酷い奴隷の制度があるといって、娼妓制度を取り上げてきおった。これと比べたら支那人に賃金を払って働かせることは残酷ではないから許すべきだという論法。言われてみると、娼妓の実態は奴隷と変わらない。このような者がおることは、これから文明の世になろうとする日本国の大きな恥じである。そこで、私は、これらの者を解放することを建白しました。政府はこれを認めて解放令を出した。これが明治五年十月二日の太政官布告なのです

 

 大江が胸を張ってテーブルを叩くと、

 

「よくやった」

 

「すいぞ」

 

と一斉に喝采が起きた。

 

「諸君、この太政官布告には、実に面白い部分があります。娼妓の借金は返す必要はないというもの。その理屈を、諸君、頭にいれられよ。娼妓は人の権利を失うものだから牛馬と同じだ。牛馬に返済を求めることは出来ないというの。なかなか粋なはからいではないか。この御布告がその後無視されていることが私は許せない。このような御布告があるにも関わらず牛馬にひとしき者を増やす地方長官は御布告の罪人と断定できると思うがどうかな

 

「その通りです」

 

「断じて許さないぞ」

 

会場から声があがった。

 

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

 

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