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2016年7月10日 (日)

小説「楫取素彦物語」第141回

教育県群馬 

 

 

 

 

 教育県群馬の基礎づくりにつき、特筆すべきことは、楫取の「修身節約」編さん事業である。それには生前の寿の強い勧めがあった。

 

明治十年のある日、本願寺出張説教所の長である小野島行薫が楫取邸を訪ねた。同郷人の気安さ、また、前橋の真宗説教所を預る者として、楫取夫妻とは別格の間柄である。寿夫人も同席して話が弾んだ。

 

 ところでと、行薫が真顔になって言った。「最近の法話の時、一人の町民が妙なことを申すので驚きました」

 

「あなたが驚くとは一体何事ですか」

 

「西欧文明は素晴らしいというのです。阿弥陀仏だとか、ナアミダブツは時代遅れではないか。科学の時代に果たして役に立つのですかと真剣に尋ねるのです。はっとして回りをを見るとハイカラばかりです。街の子どもたちの様子、さげ髪、あげ髪、衣服から、履物に至るまで、文明開化が及んでいるのです。これは由由しき大事と思いました」

 

「それは大変なこと。根が深い問題です。最近の欧化主義の行き過ぎには私も心配しておりますが、そんなにも日常のことに及んでおるとは」

 

 楫取がこのように言うとそれまで黙っていた寿が口を開いた。

 

「外見がそのように文明開化に染まっているということは、心も変わっているということですね。そのことが重大事でございましょう

 

「私は法話をしながら日本が崩れていく不安を感じました」

 

「これは教育の一大事です。群馬県民の特色は軽いと言われる。文明開化の波に洗われて、心の根まで流されてしまっては、群馬県の教育が成り立たなくなる。私は、教育と新産業で群馬を興そうと決意した。文明開化の行き過ぎは群馬の教育の危機だといっても言いすぎではありますまい。何か手を打たねばならない時期にきているな

 

 楫取はこう言って、暫く考えた末に言った。

 

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

 

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