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2016年7月31日 (日)

小説「楫取素彦物語」第148回

下村善太郎が立った。

「楫取先生長い間御苦労様でした。あなたが群馬を離れるらしいと聞き、私たちは政府に留任を求める等、あらゆる努力を尽くしました。残念です。この利根の流れ、上毛の山々、皆、永遠にあなたのことは忘れません。あなたは、私たち県民の心に、自信と勇気と誇りの種を播いてくれた、これをしっかり育てることが私たちの使命。約束します、これらを大きく育てることを」

 一人の青年が群衆をかき分けて進み出て壇に立った。石島良三郎と名乗るこの若者は叫んだ。

「閣下は、荒れた上州の地を天下に誇る教育県にしました。この群馬に品格を打ち建てた。私たち若者はこれを受け継いでいきます」

 楫取はこみ上げるものを押えて民衆を見ていた。様々な人の顔が去来した。毛利敬親公、松陰、そして妻寿。

ああ、寿をこの場に立たせたかった

 楫取が感慨にひたっていると、一人の長身の紳士が目の前に立った。

「おお、あなたは、あの時の」

「新井領一郎です。仕事で日本に来ていました。胸がいっぱいです。県民の皆さんに是非伝えたいことがあります」

 領一郎はこう言って壇上に立った。

「皆さん、ニューヨークから戻った新井領一郎です。八年前、奥様の寿様から吉田松陰の短刀をいただき、閣下からは、至誠を尽くせば心は通じるという松陰の言葉を教えられました。お陰で私は今まで力を尽くすことができました。今や、群馬の生糸はニューヨークで大きな名声を得ています寿様がこの世にいないことが本当に残念でなりません

 領一郎が涙を拭ぐうと民衆にどよめきが起きた。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

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