« 人生意気に感ず「前橋地裁の死刑判決。都知事選の不気味。ロシアは恐い国」 | トップページ | 小説「楫取素彦物語」第146回 »

2016年7月23日 (土)

小説「楫取素彦物語」第145回

 

ある日、行薫が言った。

「松陰先生があの世で喜んでおられることでしょう」

「松陰はあの世で、子どもたちのこころが欧化の嵐で流されてしまうことを憂えていたはずです。松陰の霊に報いることが出来ればこんな嬉しいことはありません

「あなた様、立派なお仕事をなされ、本当に宜しゅうございました。寿はこんなに嬉しいことはございません」

 寿の笑顔に楫取は黙ってうなずいた。

「難治の県」の発展は人づくりにある。こう信じた楫取は多くの小学校を訪ねて優秀な生徒を表彰し全校生徒を励ました。修身説約は子どもたちを励ます旗であり、子どもたちがよって立つ心の基盤であった。

 

 

美和子の再婚

 

 

 明治十六年、五月三日、美和子は楫取と再婚したが、ここに至る道は平坦ではなかった。寿の死後、楫取が何かと不自由していることを知った杉家の母滝は美和子が楫取と再婚することを勧めた。

「美和子さん、母は、お前がいつまでも一人でいることが心配です。楫取のところへ嫁いではくれまいか、考えておくれ」

「まあ、お母様、何を申されますか。美和は再婚など考えておりません。私の心には::」

そう言いかけて美和子は口をつぐんだ。美和子は初め母の勧めを強く拒んだ。二夫にまみえずという婦徳の重みはもち論感じていたが、美和子にとって何よりの重大事は胸の奥にある玄瑞の存在であった。若き日の玄瑞、若い日の燃える心で受け止めた夫の姿は長い歳月を経ても心の底で生きていた。時々取り出しては見る玄瑞の文は美和子の心を時空を超えて過去へ引き戻し懐かしい玄瑞との再会を果たさせるのであった。ある時、美和子は玄瑞の手紙を枕元において眠ると、夢を見た。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

|

« 人生意気に感ず「前橋地裁の死刑判決。都知事選の不気味。ロシアは恐い国」 | トップページ | 小説「楫取素彦物語」第146回 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 小説「楫取素彦物語」第145回:

« 人生意気に感ず「前橋地裁の死刑判決。都知事選の不気味。ロシアは恐い国」 | トップページ | 小説「楫取素彦物語」第146回 »