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2016年7月 3日 (日)

小説「楫取素彦物語」第139回

二人が妓楼の立て込んだ下町を歩いた時、両側から弾歌、嬌声、異人さーんと叫ぶ女の姿が見えた。楫取の胸に不安が走った。

 その時、二階で、蒼白い女が立ち上がると、汚い水を二人に向かってぱっと撤いた。

「キャー」

声が天から降るかのように響いた。

ベルツ博士は、ここまで絶讃していたことを否定するかも知れないこの高名なドイツ医師は日本の温泉に高い関心を寄せとくに伊香保を評価している。今日の出来事が悪い影響を及ぼさねばよいが

楫取は心中ひそかに恐れた。

 楫取はそっとベルツを見た。顔色を変えず微笑みをたたえて歩いている。それを見て、また一段と高くなった頭上の嬌声を聞いて、楫取の胸には深く期するものがあった。

 それから間もなく「日本鉱泉論」は書かれた。博士は、ここで、伊香保温泉を例としてわが国温泉地開発のモデルプランを政府に進言した。博士は、その中で伊香保温泉の泉質を分析し、医療、健康に優れていることを記述し、特に環境の優れている点を挙げて次のように讃えた「日本全国中、此の地と清勝佳景を競地はないと信ずる、故にかりに温泉なしといえども、眺望の絶佳と空気の壮快によって、人身に益する所すこぶる偉大なり」この文章の効果は大変大きかった。楫取は大いに感謝した。

「一杯の汚水」が楫取の決心を早めたと古老は伝える。

 現状を変えて改革を行うことにはいつの時代も抵抗が伴う。武太夫は当時を振り返って言った。

村八分のようだった

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

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