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2016年6月25日 (土)

小説「楫取素彦物語」第136回

「埼玉県下の例をもって本議案を否定するのは甚だ不適当である。反対者は一を知って二を知らない。その着眼は浅く目先にばかり気を取られている。社会の公益を永遠に計る道を論じない。何とも口惜しいことだ。諸君、この一、二の反対論者にだまされることなく本議案を通すことを敢えて乞うものである

 この湯浅治郎は、新島襄の感化でキリスト教徒となり、今や廃娼運動の中心的存在となっていた

 この時、星野耕作が発言を求めた。

「建議の主唱者には、娼妓廃止の方法とその期限等につき考えがあると思うがそれをうかがいたい」

 湯浅治郎が答えた。

「とっさの間に廃絶すれば、正業に復する道に窮することになる。先ず数月の猶予を与え、その後、断然廃止する見込みであります。もれ聞くところによれば、この建議を県会の所見として上申すれば県令より特にその方法につき諮問せられるということである。だから尚更至急上申することを望む」

 実は、湯浅と眞下は、審議に入る前、楫取県令と打ち合わせを行っていた。

「建議案を見ました。よく出来ている。群馬県で社会の正義を実現する時だと思う。最大の援軍は太政官布告第二九五号だがこれは表面に立てなくてもよいだろう。まず、議会をまとめてください。私はもちろんやる決意です」

 湯浅たちは県令のこの発言に大いに勇気づけられた。

 議長宮崎有敬は、建議を不可とする者を起立させたが少数であったので、県令に上申することになった。湯浅治郎は同志の手を握り言った。

「遂にやりましたな」

 この時、傍聴席にざわめきが起きた。県会が存在感を示した瞬間に立ち会った県民が感動を示す姿であった。その中に、かつて楫取を訪ね群馬の女奴隷を解放すべしと訴えた三人の若者も見られた。大島精助、金谷武平、市川五平太の三人である。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。

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