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2016年6月18日 (土)

小説「楫取素彦物語」第135回

 寿が亡くなって慌しい日が過ぎた。ある日、清光寺の初代住職小野島行薫が楫取を訪ねた。

「墓誌に刻まれた寿さまの様子は松陰先生の最期もかくやと思わせます」

「松陰殿と性格がよく似ていた。最後に会えなかったことが残念でならぬ」

「県会にも難しい問題があると聞きます。楫取家にとって大変な時なのに御同情申し上げます」

「実は、寿は県会のある重要案件を気にかけていた。昨年末に出された娼妓廃絶の請願のことだ。この問題について、私は妻にそのつど情況を伝えてきた。妻は真宗の立場からもこの請願を実現させて虐げられた女たちを救いたいと願っていた。

小野島は、よく承知しております、というように頷いた。私はかねて県会と力を合わせて進めたいと言っていた。そこで、昨年、県会に請願が出されたことを知って妻は関心を強めておりました。実は、驚いたことがある。寿は嫁たちにいろいろ言い残したがその中に、私に娼妓廃絶をやり遂げるよう伝えよというのがあったのです」

「これは容易ならぬ重大事。拙僧には寿様の心痛い程よく分かります。兄松陰先生が獄中で人々を教えた姿には、虐げられた人々の心を救いたいとう信念が窺えます。娼妓を救うことは、人間を大切にするという真宗の教義に適うものです。これは、楫取様、奥様のためにも是非進めていただきたく存じます」

「分かった。議会の動きを注意深く見よう。志の高い、心を通わせる人物も議会で増えてきた。これは、群馬県の将来にとって大きな意義のある問題に発展する気がいたします」

 楫取は昔、長門を去る時、幻馬が奴隷船マリア・ルーズ号事件に注意せよと言ったことを思い出していた。

太政官布告を生かす時か

楫取は心中でつぶやいた。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています

 

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